武蔵小金井駅から徒歩数分。そこだけ静かな気に満ちた由緒ある尼寺に、ひっそりと伝えられる美食がある

BY MIKA KITAMURA, PHOTOGRAPHS BY PARKER FITGERALD

 二代目の香栄尼(こうえいに)は、武蔵野の女学校に在学中、修学旅行で泊まった京都の尼門跡寺の美しさに感銘を受け、自宅に近い三光院を訪ねた。祖栄尼に気に入られ、日々の手伝いをしたり、料理を学んだり。祖栄尼は娘のように香栄尼を可愛がったという。香栄尼が出かけるときは、ハンカチやティッシュペーパー、お小遣いまでバッグに用意して送り出した。

 香栄尼が得度したのは30代に入ってから。祖栄尼が病をえて、半年の命と宣告されたためだ。しかし祖栄尼は、香栄尼の献身的な介護により、77歳で亡くなるまでの20年余りを穏やかに過ごした。

「祖栄尼さまはとび抜けてセンスがよく、器用でお料理上手。でも、三光院の料理の素晴らしさに気づいたのは香栄尼さまです。祖栄尼さまは幼いときからこういう料理しか知らないので、価値にお気づきにならなかった」と西井は笑う。また、香栄尼は「ひらめきの人」だとも。
「瞬時に判断してよいものを採り入れ、これと思ったことはすぐに実行します。だからこそ、祖栄尼さまの素晴らしさを見抜き、進んで弟子になられたのでしょう」

画像: 畑から採ってきたばかりの野菜で料理をする。揚げたなすと合わせるために枝豆をする。寺ではすり鉢をよく使う。すりこ木は、山椒の木で作られたもの。「畑でその日に採れたものを使い、すぐに調理します。これがいちばんのごちそうです」

畑から採ってきたばかりの野菜で料理をする。揚げたなすと合わせるために枝豆をする。寺ではすり鉢をよく使う。すりこ木は、山椒の木で作られたもの。「畑でその日に採れたものを使い、すぐに調理します。これがいちばんのごちそうです」

小さな畑で収穫。今日はトマト、なす、きゅうり、アスパラガス、青じそ、枝豆。青じそ、みょうが、三つ葉などの薬味は、料理している最中に庭へ採りに出ることも。新鮮さもごちそうだ

画像: 柚子も庭からもぎ立てを使う

柚子も庭からもぎ立てを使う

 西井は香栄尼とのひとときを楽しげに話してくれた。「15年ほど前、今日はお月見をしましょうと、縁側から月を眺めておりましたら、香栄尼さまがお月見うどんを作りましたよ、って。それが素うどんなの。お月さまをつゆに映していただきましょう、と。こんな風雅なことって、あるかしら」

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