武蔵小金井駅から徒歩数分。そこだけ静かな気に満ちた由緒ある尼寺に、ひっそりと伝えられる美食がある

BY MIKA KITAMURA, PHOTOGRAPHS BY PARKER FITGERALD

 西井が特に好きな料理が「インドのうさぎ」(P2 写真)だ。香栄尼がインドを旅したあと、かの地の仏教説話をヒントに、豆腐と西京味噌だけで作り上げたクリーミーな豆腐料理。西井がフランス料理の盛りつけのテクニックで、スプーン2本を使ってムースを盛りつけているのを見て、香栄尼はすぐにその技を採り入れ、「白い色だけではね」とあじさいを添えた。シンプルで、艶やかな一品だ。精進料理の伝統を守りながら新しい技を採り入れ、三光院の料理は進化している。

画像: 料理をいただく、本堂裏にある十月堂。広い窓から裏の竹林が眺められ、一幅の絵のよう

料理をいただく、本堂裏にある十月堂。広い窓から裏の竹林が眺められ、一幅の絵のよう

画像: 十月堂にいつも置かれている写真には、祖栄尼(右)と香栄尼がともに料理をしている姿が

十月堂にいつも置かれている写真には、祖栄尼(右)と香栄尼がともに料理をしている姿が

 仏教では、ひとりの僧侶は、僧侶をひとり育て上げるのが務めといわれている。祖栄尼は香栄尼を育て、香栄尼は精進料理を通じて西井という弟子を得た。「私は料理で香栄尼さまにご恩返しをしたいとずっと思ってきました」と西井は言う。それが一昨年、かなった。先に紹介した味噌漬け豆腐の燻製を「香栄豆腐」と名付け、世に送り出した。西京味噌のやさしい味わいに、ほんのり桜の木の燻香をまとった、柔らかな豆腐。京都の西京味噌、三光院の桜――。祖栄尼から香栄尼、そして西井香春へとつながる精進料理。伝統と革新が寄り添い重なり合って、古くて新しい「本物」を育んでいくことを、三光院が教えてくれた。

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