性をテーマにした刺激的なアートの数々は、今や70〜90歳代になる女性アーティストたちが手がけたものだ。彼女たちの作品が人々に認知されるまでに、なぜこれほどまでの時間がかかったのか?

BY RACHEL CORBETT, PHOTOGRAPHES BY DEAN KAUFMAN, TRANSLATED BY G. KAZUO PEÑA(RENDEZVOUS)

画像: キャロリー・シュニーマン。ニューヨーク州ニュー・パルツにある自身のスタジオにて

キャロリー・シュニーマン。ニューヨーク州ニュー・パルツにある自身のスタジオにて
 

 これらの女性アーティストの若い頃の厚顔ぶりはかなりのものだったが、それにも増して、歳をとってからの彼女たちのふてぶてしさといったらもはや革命的だ。最も驚くべきは、長年無視されながら、彼女たちが決して作品制作をやめなかったことだ。その頑固さと断固たる粘り強さが、過激さのよりどころになっているのだろう。

 「60年代から70年代初めの頃は、あらゆるギャラリーに拒否されたわ」と、78歳になったキャロリー・シュニーマンは言う。彼女は2017年のヴェネツィア・ビエンナーレで生涯功績賞を受賞し、回顧展も2018年3月11日までMoMA PS1にて開催中だ。この展覧会は、シュニーマンの長年の努力がやっと実を結んだものといえるだろう。彼女が1975年にイースト・ハンプトンで開催された女性美術祭で行った悪名高いパフォーマンスは、自身の女性器から少しずつ取り出した巻物を読み上げるというものだった(その巻物の内容は、彼女の作品の“日記のような自己陶酔”を批判した、ある“構造主義の映画製作者”の男性についてのものだった)。 彼女は仲間と同様に、近年になって認められたことにほろ苦い思いを抱いている。また一方では、この成功を楽しんでもいる。

画像: (写真左) キャロリー・シュニーマンが1964年に制作した動画《Meat Joy》からの静止画。この映像はニューヨークのMoMA PS1にて3月11日まで開催中の回顧展にて公開されている © 2017 CAROLEE SCHNEEMANN PHOTOGRAPH BY AL GIESE, COURTESY THE ARTIST, P.P.O.W, AND GALERIE LELONG, NEW YORK  (写真右) 1963年に制作された《Eye Body》の中のシュニーマン © 2017 CAROLEE SCHNEEMANN PHOTOGRAPH BY ERRÓ, COURTESY THE ARTIST, P.P.O.W, AND GALERIE LELONG, NEW YORK

(写真左)
キャロリー・シュニーマンが1964年に制作した動画《Meat Joy》からの静止画。この映像はニューヨークのMoMA PS1にて3月11日まで開催中の回顧展にて公開されている
© 2017 CAROLEE SCHNEEMANN
PHOTOGRAPH BY AL GIESE, COURTESY THE ARTIST, P.P.O.W, AND GALERIE LELONG, NEW YORK
 
(写真右) 
1963年に制作された《Eye Body》の中のシュニーマン
© 2017 CAROLEE SCHNEEMANN
PHOTOGRAPH BY ERRÓ, COURTESY THE ARTIST, P.P.O.W, AND GALERIE LELONG, NEW YORK
 

「もう、なんて言ったらいいのか、最高の気分。どこに行くにもタクシーで移動できるのよ」とバーンスタイン。だが一方で、この成功を招いた時勢には疑念も抱いている。美術界においては、女性作家は歳をとるか死ぬまでアーティストとして真剣に取り上げてもらえないという不変の状況が、今も続いている。この例でいうと、ルイーズ・ブルジョワは1982年、70歳をすぎてようやく初めての回顧展が開かれた。画家のカルメン・ヘレラにいたっては、2016年にホイットニー美術館で初の回顧展が開催されたとき、彼女は101歳だった。

彼女たちの作品は、昔と変わらず妥協のないものだ。しかし、本人たちもわかっている。男性の目からすると、彼女たちが年齢を重ねることで作品の効果は中和され、その威力や危険さが弱まっているということを。歳をとったことで、女性アーティストたちの性的反抗は、男性にとってそれほど重大なものでなくなったのだ。「彼らはもう、私たちと寝たいとは思わないからね」とシュニーマン。「私たちは、若い女性たちほど脅威ではないのよ」とバーンスタインは言う。

 一方で、歳をとっても変わらないこともある。バーンスタインは昔と変わらず、1967年から使っているチャイナタウンにあるアトリエを拠点としている。アトリエには、飼っている2匹のペルシャ猫のためのぬいぐるみやおもちゃのコレクションが散らかり放題だ。以前は、何十年分もの売れなかった絵画がぎゅうぎゅう詰めになっていたが、今では収納スペースを借りる余裕もできた。先日、筆者が訪れた際にスタジオに並んでいたのは、頭が睾丸になったドナルド・トランプや、顔が女性器になったヒラリー・クリントンなど、ブラックライトで鮮やかな蛍光色を発する新しいシリーズの絵画だけだった。ちなみにこのシリーズは、ダウンタウンのドローイング・センターで展示されている。これらの作品にはどれも、バーンスタインの署名が黒い筆記体で大きく殴り書きされている。「誰が描いたか、誰にでもがわかるようにね」

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