良質な展覧会は、いつだって新しいインスピレーションを与えてくれる。美術館や博物館、ギャラリーで現在開催中のものから、ぜひ訪れたい展覧会をT JAPANが厳選。2月のリストは、成熟した女性アーティストたちの個展

BY MASANOBU MATSUMOTO

「ピアニスト」向井山朋子展|
銀座メゾンエルメス フォーラム

 向井山朋子は、オランダ・アムステルダムを拠点に国際的に活躍するピアニスト。近年は、いわゆる音楽の枠組みを超え、演劇的で実験的な作品にも挑んでいる。たとえば、200人規模のホールでたったひとりの観客のために演奏する1対1のピアノリサイタル『for you』、観客と一緒にお茶を飲み、会話を楽しみながらコンサートをする『リビングルーム』、また2018年には野外でのダンス作品『雅歌』の演出も担当し、映画製作も行なった。

 現在開催中の、「ピアニスト」と題された銀座メゾンエルメス フォーラムでの個展では、2種類のインスタレーション作品を展示し、連日パフォーマンスも行う。インスタレーションのひとつは、津波にあったグランドピアノを使った《ここでなく、いまでなく》。「ピアニストが寝ている間も練習できるように、死んでからもピアノが弾けるように」と語る向井山にとって、この寝台のようなピアノは、大惨事に対する想いであり、愛すべきピアノへのメッセージでもある。

画像: 《ここでなく、いまでなく》 2019 津波にあった 2 台のピアノによるインスタレーション

《ここでなく、いまでなく》 2019 津波にあった 2 台のピアノによるインスタレーション

 本展「ピアニスト」に寄せて、向井山はこう書いている。「子どもの頃、ピアノは自分の身体には大きすぎる黒い怪獣のようだった。ピアノを弾くときはいつもひとりきり。一人、ピアノの前で空想し、妄想が生まれた。すべてはピアノの前で起こり、すべてピアノを通して、理解できた」

画像: (左) 《Just before》 2019 14 台のピアノによるインスタレーション、ピアノパフォーマンス (右)向井山朋子 PHOTOGRAPHS: ©NACÁSA & PARTNERS INC. / COURTESY OF FONDATION D'ENTREPRISE HERMÈS

(左)《Just before》2019 14 台のピアノによるインスタレーション、ピアノパフォーマンス
(右)向井山朋子
PHOTOGRAPHS: ©NACÁSA & PARTNERS INC. / COURTESY OF FONDATION D'ENTREPRISE HERMÈS

 そういった向井山のピアノに対する身体感覚は、もうひとつのインスタレーション《Just before》にもよく表れている。これは、グランドピアノから調律が狂ったアップライトまで14台のピアノを積み上げたインスタレーション作品で、なかには宙に吊るされたものもある。

 この空想的で妄想的な“ピアノの森”は、展覧会のハイライトである向井山自身によるパフォーマンスの場でもある。参加者が空間を鑑賞していると、向井山が登場し、“ピアノの森”から一つを選んで演奏するのである。

 通常の展覧会ともっとも異なるのは、スタート時間の設定だ。オープン日の2月5日は12時から、2日目である6日は13時から、と毎日1時間ずつずらしながら、ちょうどスタート時間がひと回りするまでの24日間、連日パフォーマンスを伴う展示が開催される。これは向井山の発案だ。オープニングセレモニーの際、本人は「ただ、そのルールだと、18日は24時から、19日は1時からギャラリーがオープンすることになる。この2日だけは連続で演奏することになるのを、あとで気づいたの」と笑っていた。

 心地よい鑑賞体験は、そのチャーミングで度量の大きい彼女の人柄による部分もあるに違いない。パフォーマンスを観終わったあと、この黒い“ピアノの森”が不思議と、とても生命力に満ちたものに見えた。これこそ、「ピアニスト」の力だろう。

「ピアニスト」向井山朋子展
会期:〜2月28日(木)
会場:銀座メゾンエルメス フォーラム
住所:東京都中央区銀座5-4-1 8F
開館時間:日にちにより異なるため、公式サイトを参照
休館日:会期中無休
入場料:無料
電話:03(3569)3300
公式サイト

 

This article is a sponsored article by
''.