今回のリストは、村上隆の“ドラえもん絵画”の新作展。AIやロボット、バイオテクノロジーをテーマに人間の未来の生き方を問う企画展。そして、世界的なメディアアート集団ダムタイプの活動をつまびらかにするエキシビション

BY MASANOBU MATSUMOTO

『未来と芸術展』|森美術館

 森美術館ではじまった『未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命―人は明日どう生きるのか』。この“未来”が意味するのは、漫画やアニメに描かれているような夢想的でフィクショナルな世界ではない。気候変動やAIが人間の知能を超える「シンギュラリティ」の到来――、今現代に起こっている事象から予測される、近い将来のこと。この現実と背中合わせにある“未来”という言葉と、本来「生きるための技術」を意味する“芸術(ラテン語のアルス)”をタイトルに並べ、本展は、明日の人間の生き方を見る者に問いかける。

 サブテーマは、AIからロボット工学、バイオアート、エコロジーや都市計画。いわゆる美術家の作品だけでなく、企業や研究所が実践するプロジェクトも積極的に紹介されているのも本展の特徴だ。とりわけ現代人にとってリアルな問題である気候変動については、現在進行中のものを含めた建築家たちのアイデアが興味深い。

画像: 展覧会の第1章「都市の新たな可能性」の展示風景。ビデオや写真、模型などを展示しながら、現在危惧されている諸問題に対応する、アイデアフルな都市計画を紹介 PHOTOGRAPH BY KEIZO KIOKU

展覧会の第1章「都市の新たな可能性」の展示風景。ビデオや写真、模型などを展示しながら、現在危惧されている諸問題に対応する、アイデアフルな都市計画を紹介
PHOTOGRAPH BY KEIZO KIOKU

画像: エコ・ロジック・スタジオ《H.O.R.T.U.S. XL アスタキサンチン g》2019年 © NAARO

エコ・ロジック・スタジオ《H.O.R.T.U.S. XL アスタキサンチン g》2019年
© NAARO

 たとえば、実際にアブダビの砂漠地帯に建設中だというフォスター+パートナーズの《マスダール・シティ》。これは、再生可能エネルギーとクリーン・テクノロジーを組み合わせた、石油に依存しない都市生活を目指すもので、“エネルギー自給型”の生活の青写真だ。ビャルケ・インゲルス・グループの《オーシャニクス・シティ》は、地球温暖化に伴う海面上昇を想定し、1万人が生活可能な海上都市を描いたもの。また、エコ・ロジック・スタジオは、新しい食材、また燃料として注目を集めているミドリムシ(ユーグレナ)を埋め込んだ彫刻作品を展示した。太陽光により光合成を行うミドリムシを構造物内に取り込むというこのアプローチは、今後建築物への応用も期待されているという。

 こうしたプロジェクトや作品の独創性は、造形的な新しさや美しさではなく、テクノロジーやアイデアの合理的な組み合わせや現実可能性にある。一方で、未来的な「美」のありようを探るような作品もある。ミハエル・ハンスマイヤーの《ムカルナスの変異》やアウチの《データモノリス》が問いかけるのは、AIが作るものに、美しさはあるのかということ。いずれもAIによる解析やシミュレーションによって、かたちやビジュアルを生み出した作品だが、共通して“神秘性”という原始的美しさ、美の根源を提示しているのも面白い。

画像: (写真左から)ミハエル・ハンスマイヤーの作品《ムカルナスの変異》(2019年)、アウチの《データモノリス》(2018/2019年)のディテール PHOTOGRAPH BY MASANOBU MATSUMOTO

(写真左から)ミハエル・ハンスマイヤーの作品《ムカルナスの変異》(2019年)、アウチの《データモノリス》(2018/2019年)のディテール
PHOTOGRAPH BY MASANOBU MATSUMOTO

画像: ディムート・シュトレーベ《シュガーベイブ》2014年‐ PHOTOGRAPH BY KEIZO KIOKU

ディムート・シュトレーベ《シュガーベイブ》2014年‐
PHOTOGRAPH BY KEIZO KIOKU

 この展覧会がチャレンジングであるのは、美術館のなかに「バイオアトリエ」を作り、いくつかの作品を展示していることだ。そのひとつがディムート・シュトレーベの《シュガーベイブ》。これは、美術史において謎多き画家ゴッホが自ら切り落とした左耳の再現で、作家は、その子孫からDNAを採取し、クローン耳を作り出した。これを進歩的だと思うか、おぞましいと思うかーー。本展には、ほかにも倫理観を問う作品、賛否を巻き起こす作品も並ぶ。それらを目の当たりに、鑑賞者が自ら何を考え、どう判断していくか。それこそが豊かな未来を作るカギになる。

『未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命―人は明日どう生きるのか』
会期:〜2020年3月29日(日)
会場:森美術館
住所:東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー 53階
開館時間:10:00~22:00(最終入館 21:30)
※火曜日のみ17:00まで(最終入館 16:30)、ただし12⽉31⽇、2020年2月11日は22:00まで(最終⼊館 21:30)
休館日:会期中無休
料金:一般¥1,800、学生(高校・大学生)¥1,200、子供(4歳~中学生)¥600、シニア(65歳以上)¥1,500
電話: 03(5777)8600(ハローダイヤル)
公式サイト

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