BY MASANOBU MATSUMOTO
『第14回恵比寿映像祭』|東京都写真美術館ほか
恵比寿映像祭は、1年に1度開かれる映像とアートの国際フェスティバル。14回めとなった今年は「スペクタクル後」をテーマに据えた。
スペクタクルとは、風景や光景、壮大な見世物の意味。フランスの思想家であり映像作家であったギー・ドゥボールは、1967年に発表した著書『スペクタクルの社会』で、メディアが提示するイメージを一方的に受けて生きる人々を「観客」と表現し、そういったメディア消費社会を「スペクタクル社会」と呼んで批判した。その意味でこの「スペクタクル後」とは、SNSやメタバースなどの新しいメディア空間が誕生し、映像がより生活に浸食してきた現代を考察する哲学的なテーマともいえる。実際に、新しいスタイルの映像作品、SNS時代のゆがみを提示するような映画作品などが多くラインナップされているが、映像表現の可能性を純粋に楽しく体験できる作品も少なくない。
メイン会場は、東京都写真美術館。3つの展示室を使い、イメージを取り巻く社会状況の変容をテーマとした資料の展示、また現代アーティストの作品を見せる。たとえば、日本におけるメディアアートの第一人者である藤幡正樹の《Voices of Aliveness》。彼が90年代から取り組んできた、撮影時のGPSの位置情報を付与した複数の動画を、3D空間上に編集・マッピングしてみせる「Field-Works」シリーズの到達点的な作品であり、サイバースペースのなかの新しい風景を作り出す。佐藤朋子の《オバケ東京のためのインデックス 序章》は、岡本太郎が記した都市論『オバケ東京』に関するリサーチをもとにしたレクチャー・パフォーマンス。オバケ、あるいはゴジラなど非人間的な存在を主体に「もうひとつの東京」をイメージするという試みで、本展では、映像インスタレーションに再構成して、展示する。
期間中は、劇映像から実験映画、アニメーションまで映像祭のために特別に編まれた上映会も連日開催。注目は、ジェンダーや社会問題に切り込むミレニアム世代のふたり。Gucciのクリエイティヴデジタルプロジェクト「#GucciGram」に起用され、初監督長編映画『エル プラネタ』が日本での公開中のアマリア・ウルマン。そして、卒業制作である『忘却の先駆者』がロッテルダム国際映画祭に出品され、近年アートシーンでも注目を集める石原海。ウルマンは、レクチャーパフォーマンスとして制作された過去の映像作品を、石原は北九州の教会を舞台に、そこに集まる人々が行う聖書劇を中心に捉えた新作《重力の光》のドキュメンタリー版などを上映する。
映像を使ったユニークなパフォーマンスイベントもみどころだ。参加作家のusaginingen(うさぎにんげん)は瀬戸内の離島・豊島に自らオープンした劇場を拠点に活動する夫婦のパフォーマンスユニット。自作の映像機と楽器を使った演奏・上映を通じて、一回性の映像表現を鑑賞者に提示する。
『第14回恵比寿映像祭「スペクタクル後 AFTER THE SPECTACLE」』
会期:~2月20日(日)
会場:東京都写真美術館、恵比寿ガーデンプレイス センター広場、地域連携各所ほか
開館時間:10:00~20:00(東京都写真美術館)※最終日は18:00に閉館、入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜
料金:無料
※3階展示室、定員制のプログラム(上映、イベントなど)、一部のオンラインプログラムは有料
電話:03-3280-0099
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