注目の展覧会を厳選してお届けする本企画。今月は『松山智一展:雪月花のとき』、『「前衛」写真の精神:なんでもないものの変容』、『オラファー・エリアソン展:相互に繋がりあう瞬間が協和する周期』の見どころを紹介する

BY MASANOBU MATSUMOTO, EDITED BY T JAPAN

『松山智一展:雪月花のとき』

 松山智一はNY・ブルックリンを拠点とする現代美術家。古今東西のさまざなモチーフ、ときにファッション誌にうつる人物像や消費社会の産物なども混ぜ込んだ、いわば現代の大和絵のような作品を手がけてきた作家だ。現代人は多様で長い文化的蓄積の上に生きている。多様なイメージをサンプリングし多層的に再構築してできあがる松山の絵画は、そうした現代を生きる人のアイデンティティをどう定義できるかといった関心も反映されている、と以前本人は話していた。

画像: 松山智一《People With People(心の連鎖反応)》2021年 株式会社セーニャ蔵(弘前れんが倉庫美術館での展示風景) Photo: Osamu Sakamoto

松山智一《People With People(心の連鎖反応)》2021年 株式会社セーニャ蔵(弘前れんが倉庫美術館での展示風景)

Photo: Osamu Sakamoto

 本展は、松山にとって日本の美術館では初となる大規模な個展。中心となるのはコロナ禍前後――この2、3年のうちにつくられた作品で、ミュージシャンの「ゆず」のために描いた巨大絵画や古来より仏像に用いられてきた截金の技法を用いた彫刻なども並ぶ。

画像: 松山智一《Hello Open Arms(両腕に掲げられ、両手を上げろ)》2023年 個人蔵(弘前れんが倉庫美術館での展示風景) Photo: Osamu Sakamoto

松山智一《Hello Open Arms(両腕に掲げられ、両手を上げろ)》2023年 個人蔵(弘前れんが倉庫美術館での展示風景)

Photo: Osamu Sakamoto

 また展示されている新作の多くが、人物がいるさまざまな室内風景を描いたものであることも興味深い。その室内画をよく見るとそれぞれ画面のどこかに空から降り落ちる雪がモチーフに描かれているのがわかる。(コロナ禍において、多くの人が自室に籠りながらリモートで世界と繋がって過ごしたように)雪という自然の産物であり、溶けて消えゆく可変的なものが、絵の中の遠く離れた人たちの日常を繋いでいるわけだ。会場は雪国・青森。展覧会場の外では、本物の雪が舞い降りている(かもしれない)こともどこかドラマティックな気分にさせる。

『松山智一展:雪月花のとき』
@弘前れんが倉庫美術館
3月17日(日)まで
公式サイトはこちら

『「前衛」写真の精神:なんでもないものの変容 瀧口修造・阿部展也・大辻清司・牛腸茂雄』

 シュルレアリスム等の新しい芸術運動を受けて、1930年代、日本で前衛写真が流行したさなかに設立された「前衛写真協会」。本展は、その中心人物でありシュルレアリスムを日本に紹介した美術評論家の瀧口修造と、絵画と写真の分野で活躍した阿部展也にはじまり、瀧口と阿部に大きな影響を受けた写真家の大辻清司、また専門学校時代の大辻の教え子であった牛腸茂雄の4人にフォーカスし、日本における前衛写真とその変容の一片をつまびらかにする。

画像: 牛腸茂雄 《 SELF AND OTHERS 18》1977年、ゼラチン・シルバー・プリント、新潟県立近代美術館蔵

牛腸茂雄 《 SELF AND OTHERS 18》1977年、ゼラチン・シルバー・プリント、新潟県立近代美術館蔵

 とりわけ興味深いのが、瀧口と牛腸の関係。牛腸は直接、瀧口から薫陶を受けたわけではないが、本展の出展作品にもなっている牛腸の代表シリーズ『SELF AND OTHERS』や『見慣れた街の中で』、またその後彼が取り組んだ、インクブロットによる作品には、かつてシュルレアリストが探求した「無意識」(自己における他者)の表現、あるいは精神分析学の影響も見てとれる。

画像: 牛腸茂雄《見慣れた街の中で 1》1978-80年、ラムダプリント、新潟市美術館蔵

牛腸茂雄《見慣れた街の中で 1》1978-80年、ラムダプリント、新潟市美術館蔵

『「前衛」写真の精神:なんでもないものの変容 瀧口修造・阿部展也・大辻清司・牛腸茂雄』
@渋谷区立松濤美術館
2月4日(日)まで
公式サイトはこちら

『オラファー・エリアソン展:相互に繋がりあう瞬間が協和する周期』

 昨年秋にオープンした〈麻布台ヒルズ〉。その施設内に開館した〈麻布台ヒルズギャラリー〉では、こけら落としとして『オラファー・エリアソン展:相互に繋がりあう瞬間が協和する周期』が開催中だ。

画像: 《相互に繋がりあう瞬間が協和する周期》(部分)2023年 撮影:木奥 恵三

《相互に繋がりあう瞬間が協和する周期》(部分)2023年

撮影:木奥 恵三

 広大な〈麻布台ヒルズ〉の敷地内にはオラファーのパブリックアートも設置されており(ほか、奈良美智、曽根裕、ジャン・ワンといった美術館クラスの作品が置かれている)、本展タイトルは、その作品と同名。オラファーのパブリックアートへの理解を深めることを目的のひとつに、彼の現在までのさまざまな作品を紹介する。

画像: 《蛍の生物圏(マグマの流星)》2023年 撮影:Jens Ziehe

《蛍の生物圏(マグマの流星)》2023年

撮影:Jens Ziehe

 会期中、別フロアにある麻布台ヒルズギャラリーカフェでは、「スタジオ・オラファー・エリアソン・キッチン」と協業したブッフェも楽しめる。オラファーのスタジオはレシピ本も出版している通り、自分たちでランチをつくり、スタジオのスタッフがみな集まって食すのが慣習になっている。今回は、半分は地産地消をテーマに発酵食品や東京近郊で取れた食材を使ったレシピを、約半分はオラファーのスタジオのレシピで提供しているようだ。作家がどのようなことを考え、どのように生きているのか。その一片を食という最もエッセンシャルなもので体験できる楽しい試みだ。

麻布台ヒルズギャラリー開館記念『オラファー・エリアソン展:相互に繋がりあう瞬間が協和する周期』
@麻布台ヒルズギャラリー
3月31日(日)まで
公式サイトはこちら

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