BY MIYUKI NAGATA, PHOTOGRAPHS BY JOHN CHAN
“ついにコスメで人工皮膚をつくる時代へ”と話題を呼んだ花王のファインファイバー技術。「きっかけは、オムツや掃除用具に用いる不織布の繊維の研究でした」と研究者、内山雅普は言う。「糸は細くすると弱くなるので、太い繊維を使った不織布の研究は多くあれど、逆は日用品への応用が難しかった。でも、限界まで繊維を細くしたら面白いかもと考えた研究者が、基礎研究所にいました。15年ほど前のことです。その極細の繊維でシートをつくったら、透明な皮膚のようなものができたのです」。何に活用できるか明確なアイデアがないまま時がたつ。ブレイクスルーとなったのは“機器を用いて極細繊維を吐出する”発想。「一本の極細の糸を肌に吹きつけることで、肌との段差がなく、動いてもずれない透明な極薄膜をつくることができたのです」。だが、開発当初、吹きつけ機器は物置ほどもある大装置。「私たちだけではデバイスの小型化は難しく、餅は餅屋ということで、パナソニックさんに協力をお願いしました」
同時に商品化への検討が重ねられた。まず着目したのが“モイスト ヒーリング”。専用の美容液と極薄膜を組み合わせ、一晩中肌を覆い、適切な湿潤環境に置いて発育を促すというスキンケアの発想である。「この技術は、組み合わせるものによりメイクにも応用可能です。将来的には、治療の領域に踏み出す可能性もあると考えています」。“面白い”に端を発し、さまざまな部署へバトンをつなぎ、社の枠も超えて手を携え、誕生した新技術。「バトンは今も回り続けています」