TEXT AND PHOTOGRAPHS BY NAMI IKUMA
「いのち」と「健康」にまつわるテクノロジーが結集

「大阪ヘルスケアパビリオン」にある、宇宙時代の美をイメージしたタカラベルモントのブースにて。パビリオンには、ほかにもミライ人間洗濯機やiPS細胞の紹介など、ホストタウン大阪が力を注ぐ注目の展示がめじろ押しだ
関西エリアはライフサイエンス研究の聖地

「万博」と聞くと、工学や科学技術や建設などが真っ先にイメージされがちだが、大阪府・大阪市が出展する「大阪ヘルスケアパビリオン」では美や健康にまつわる未来のイノベーションが見られる。美容好き、健康マニアであれば、必見のワクワク空間である。
実は大阪には持ち前の「進取の気質」があり、今は当たり前のインフラとなっている社会システムや産業、製品の数多くを先駆けて生み出してきた土地柄でもある。先端のライフサイエンス研究拠点や、オンリーワンの技術を有するヘルスケア関連企業も多く、ここに参加している企業のラインナップはとにかく豪華だ。
パビリオン全体を見学するのなら、現在の自分の体と向き合いながら、先進のヘルスケア技術で未来の自分に出会うルートをたどる「リボーン体験」を予約するのがおすすめ。事前の予約をとり、アプリをダウンロードしたら、いざ、出発!
今の自分のカラダを知る。未来の自分に会う
まずは個別に測定ができるブース「カラダ測定ポッド」に入る。カメラの前に立つだけで、心血管や筋骨格、髪、肌など7項目の健康データを測定してくれる。

「カラダ測定ポッド」の中はこのような感じに

こちらが私の結果。「髪ランク」だけは成績がよく面目躍如であるが、脳がEって……(撮影に必死で質問に答え忘れたのだ)。

トータルの結果としては、なんと「37歳」!判定の基準には根拠があるだけにとてもうれしい。終了後は、マイヘルスデータが事前に配られたリストバンドにインプットされる。
フロアが変わり、次は「未来のじぶん」コーナー。2メートルくらいある大きなモニターに先ほどのリストバンドをかざすと、25年後、2050年のほぼ等身大のアバターが現れる。

測定時の顔そのままに、精密に老けている……。リアリティがありすぎて複雑な気分になるが、なんだかこれからの自分に対して覚悟ができたような気がする……。
次は「パーソナルフードスタンド」へ。リストバンドをかざすとAIが自分の「なりたいミライ」に必要な栄養や食材、レシピを提案してくれる自動販売機だ。なりたいミライとは、25年後の自分になにを求めるか。ルックス、頭脳など選択肢を選んでいくと、最後に自分のカラダと好みに合ったパーソナライズドフードがもらえる。まさに“理想の自分になれるフード自販機”なのだが、まるでドラえもんの道具のようだ。

今回出てきたのは、味の素の「アミノ酸ゼリー」。味の好みも私の舌に合わせられているのか、サブスク登録したくなるくらい、めちゃくちゃ美味しい!
次はロート製薬の「アイケアステーション」。40代まで近視にならなかったことで目にはすこぶる自信があったのだが、最近は進行中の老眼とスマホの見過ぎで衰え気味であることはうすうす自覚している。さっそくヘルスチェック!

「EYE SENSING STATION」にてリストバンドをかざすと、入り口のからだ測定ポッドで撮影した顔写真が連動。目や目の周囲の画像を用いた解析と、日ごろの生活習慣やちょっとした視力検査のようなチェックを受けて、「目年齢」が測定できた。結果は以下のようにボロボロ。

左は実年齢との比較を表示された画面。目の年齢は実年齢より若く出ているけれど、機能パフォーマンスは悪いため、将来のリスクは高め。右は目の疲れ度が表示された画面。61%と出ているが、実際にはまったく疲れの自覚がないので驚いた。そのため、誰もがケアを後回しにしがちなのだそうだ。目を大切にしようとあらためて実感。(パビリオンの出口前のドラッグストアにある大阪・関西万博公式キャラクター「ミャクミャク」とコラボレーションした限定パッケージの目薬が、お菓子に飽きた大人の方へのプチみやげにおすすめ!)
旅の最後は五感を使って自らの未来の美を感じ取る空間
さまざまなブースを周り、リボーンの旅もいよいよクライマックス。不意にカラフルな空間が広がってきた。ここが旅の最終地点だ。

タカラベルモント社は理容室や美容室のシャンプー台、ヘアケア製品などを扱う企業のはずだが、このカラフルな空間展示は何を意味するのだろうか。未来的デザインのユニフォーム(コシノジュンコさんデザインのもの!)を着たスタッフに尋ねると、折り紙のようなカードが差し出された。

折り紙にあったQRコードをスマホで開くと、画面の中にこの空間が延長されていく。そこでは設計を担当した立命館大学山出美弥准教授が空間のイメージを解き明かしていた。
ここは宇宙飛行士が探査に出かけ、暗闇の中で発見したクリスタルの洞窟。彼はそこで「本当の美しさとはなんだろう?」と自問自答を繰り返し、やがて気づきを得る──。これがブースのテーマ「Quantum Leap for Beauty World~量子飛躍する美の世界~」につながるストーリーだ。「クオンタム リープ」とは量子力学の言葉で、何かが飛躍的にジャンプすることを意味する。「本当の美とは何か」……そこで生まれる自己対話から、一人ひとりが自分なりの答えを導き出すことによって、美の概念が飛躍するというわけだ。

とはいえ、このワクワクする空間では心を解放して楽しめばいい。気に入った角度から空間を切り取って撮影したり、ピースに写り込んだ自分の姿を撮るのもありだ。自分にとって心ひかれる何かを探すことが、美の飛躍への一歩だ。
現在の私たちの社会はあまりに情報があふれ、日常を過ごしているだけで勝手に多くの情報が入ってくる。いつからか、私たちは受け身で生きることが当たり前になってしまった。宇宙のどこかにある未知の洞窟は、自分にとって本当に価値のあるものは自分で探して取りにいかなくてはならない、という力強く語りかけているように感じた。

今回の大阪・関西万博の開催についてはネガティブな意見も聞かれる。過去に開催されてきたような単なる新産業の展示であったなら、いるか、いらないかという必要論で語られても仕方がないだろう。ただ、知らず知らずのうちに溢れる情報に流され、自分に興味のある世界ばかりに誘導されやすい今の時代に、自らの目で見て触れて新しい技術を俯瞰したり、五感をフル稼動して自らの価値観を問い直すことができるのは、ここがリアル空間だからこそだ。半年間という期間限定で、身近な健康や美についてあらゆる側面から考えられるこの機会に、自分の感覚を研ぎ澄まし、楽しみながら体験してほしい。
大阪・関西万博
会期:4月13日(日)〜10月13日(月)
大阪ヘルスケアパビリオン 公式サイトはこちら
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