BY YUKA OKADA, PHOTOGRAPHS BY KIYOTAKA HATANAKA(UM)
徳島市内から、四国の内陸部に向かい車を走らせること約1時間。大部分を標高700m以上の山地に覆われ、霞がかった斜面に棚田や段々畑といった風景を残す上勝という町が、2003年当時、日本初のゼロ・ウェイスト(Zero=0、Waste=廃棄物)宣言を可決した市町村であることをご存じだろうか。
もともと傷痍軍人の雇用創出のため杉を植林するなど林業の町だった上勝では、伐採時に出る枝などを地面に穴を掘って焼却していたこともあり、ごみ処理も野焼きが主だった。しかし、噂を聞きつけた近隣市町村の住民が回収にお金がかかる粗大ゴミなどを持ち込むようになる一方、大量消費社会の代償としてごみが激増。従来の野焼きが立ちゆかない事態に。さらに安価な外材が広まり国産の杉が価値を失い、林業家の世帯が流出。過疎に直面した町には新たな焼却炉を買う財政的な余裕もなく、そんなやむにやまれぬ事情が、処理よりも発生抑制を理念とするゼロ・ウェイストにつながっていった。
それから約15年。今では実に13種類45分別のごみを、55の集落に住む803世帯1,593人(2017年10月1日現在)が自分でごみステーションに持ち込むことで、リサイクル率は約80%、生ゴミに至っては100%を達成。国内外からも年間2,500人以上の視察者が訪れるようになった村の石垣の丘上に、この10月、印象的な建築が出現した。壁面の杉のパネルを徳島伝統の藍の染料で一枚ずつ染めたその正体は、町内のマイクロ・ブルワリー「RISE & WIN Brewing Co.」の第二生産工場「KAMIKATZ STONEWALL HILL」に設けられたテイスティングサロン。手がけたのは2015年、イギリスの権威ある現代アートの登竜門「ターナー賞」を受賞した、15人からなるロンドンの若き建築家集団アセンブルだ。
時間をかけ土地を理解することは常に建築家の務めだが、彼らが大事にしている姿勢は、第一にリサーチの中で出会った優れたスキルをもつ住民に声をかけ、決定権や責任の一部を委ねること。第二に作業に自分たちも加わり、手を動かし、時には生徒になりながら、建築家が主導しがちな公共のアジェンダに、住民にも愛着と可能性を感じてもらうこと。RISE & WINはそんな彼らにとって初の海外プロジェクトでもあり、多くのオファーの中で今件を引き受けた理由の一端を、メンバーのジェイムスは次のように語る。
「ゼロ・ウェイストに取り組む上勝のトピックは、ガーディアン(イギリスの大手新聞)でも読んだことがあった。人口の流出で自治体そのものの存続が危ぶまれ、国からの投資も望めないなか、住民が一丸となって新しいアイデンティティを創ろうとする姿は、とても興味深いと思った。RISE & WINが個人による投資で成り立っていることに感銘を受けたことも大きいね」