パリのアパルトマンにエットレ・ソットサスと「メンフィス」の作品を蒐集するシャルル・ザーナ。その貴重なコレクションに満ちた住まいを紹介する後編

BY NANCY HASS, PHOTOGRAPHS BY HENRY BOURNE, TRANSLATED BY FUJIKO OKAMOTO

画像: テラスからの眺め。 テラスの下は、かつて屋敷の厩舎として使われていた

テラスからの眺め。 テラスの下は、かつて屋敷の厩舎として使われていた

 チュニジアで生まれたザーナは、1962年、2歳のときに両親とともにパリにやってきた。レスラーのようながっしりした体格に、カウボーイのような歩き方、そして、自称「常識にとらわれない型破りなコレクター」。建築デザイナーであるザーナの顧客の中にも、大きくて興味深いアートをたくさん所有しているコレクターが多く、コレクションが増えてくるとディスプレイに関するアドバイスをザーナに求めてくる。しかしザーナ自身は、自分のコレクションを特別大切に扱っているわけでもなく、また完璧な状態で保管しようとも思っていない。ザーナのこうした姿勢は、彼が「アート」の対極にあるものとして「ヴィンテージ」と呼ぶヴェニーニのガラスやジャン・プルーヴェの家具を集め始めた大学時代に始まったものだ。プルーヴェが再評価されるずっと前から、ザーナは「学校向けの手頃な家具を作っていたこのフランス人デザイナーの作品が、いかにして居宅で使われるようになったのか」に興味をもっていた。「その作品が作られた意図とは無関係に、突然デリケートで高価なものになってしまうなんてばかげていると、ずっと思っていたんです」とザーナは言う。

 そして今、1957年に制作されたカルロ・モリーノのオリジナルのアームチェアとお揃いのフットスツールには、少し擦り切れたローズピンクのベルベットのカバーがかけられている。寒くなればヒーターのそばに引き寄せられ、6月の暖かい日には、テラスから吹き込むそよ風を感じられるように開け放たれた観音開きのドアの前に移動する。ソットサスの小さな青い斑点模様がついた椅子は、実際にお客を座らせたりはしないのだが、「椅子という実体より、コンセプトのほうがやや大事というところでしょうか。もちろん、座っても構わないんですよ」とザーナ。椅子の構造を見せようと、敵を背負い投げするみたいに無造作に、躊躇することなく片手で逆さにひっくり返した。ザーナとスタイリストの妻は、グルネル通りに引っ越した2年前まで、オスマン風のタウンハウスでたくさんのアートに囲まれながら二人の子どもを育てた。子どもたちは現在、23歳と18歳になる。今にも子どもが何かを壊しそうな危険な状況の中だったが、壊れたところで誰も騒ぐことはなかった。

画像: ソットサスのキャビネット (1962年)の上に置かれた ザーナのランプ、カルロ・モリーノ のダンスホール「ルトゥラリオ」の アームチェアとスツール(1957年)、 ザーナ所有のソットサスの トーテム 3 点のうちのひとつ

ソットサスのキャビネット (1962年)の上に置かれた ザーナのランプ、カルロ・モリーノ のダンスホール「ルトゥラリオ」の アームチェアとスツール(1957年)、 ザーナ所有のソットサスの トーテム 3 点のうちのひとつ

 ソットサスと同じように、ザーナも特定の作家や時代の作品に執着するべきではないと思っている。今やっと、ソットサスの遺した作品を通して改めて彼の偉大さが世界中で認識されるようになった。だが、ザーナはプルーヴェのときのように─何も売り払ってはいないが─そろそろソットサスを卒業して次へ進もうと考えている。最近ザーナがどうしても手に入れたいと思っているのは、アムステルダムを拠点に活動するイタリア出身の若い二人組、「スタジオ・フォルマファンタズマ」の作品だ。木粉や動物の血で作ったボウル、座面は海綿で、サケの皮をなめして作ったスツールなど、彼らは自然物や廃棄物を素材に、歴史をひもとくようなコンセプチュアルな作品を発表している。ザーナは今年の末に、セーヌ通りにある自身のスタジオの隣に新しいギャラリー「アネックス」をオープンする。自分がデザインした家具の展示や、ほかのデザイナーの展覧会を定期的に行う予定だ。ザーナは言う。「ソットサスは決して立ち止まることをしませんでした。考えること、何かを求めることをやめなかった。それがソットサスの生き方だったのだと思います。私は美術館のガラスケースに納められたアートを眺めて暮らすより、美しいアートに囲まれて生きていきたいのです」

パリのアパルトマンを彩る「メンフィス」のアートたち<前編>へ

T JAPAN LINE@友だち募集中!
おすすめ情報をお届け

友だち追加
 

LATEST

This article is a sponsored article by
''.