古いキャンピング・カーを手に入れたインテリアデザイナーのパオラ・モレッティと息子は、ひと夏のあいだそこで暮らすことに決めた

BY NANCY HASS, PHOTOGRAPHS BY DANILO SCARPATI, TRANSLATED BY AKANE MOCHIZUKI(RENDEZVOUS)

 ステーブルスと違って、パオラは自分たちのキャラバンを1か所に留めることを望んだ。パオラは子どもの頃、夏になるとトスカーナの海岸沿いのマレンマというところで過ごした。付近では、イタリアのカウボーイであるブッテリが今でも馬の背に乗って牛の群れの世話を続けているような土地だ。彼女の頭の中には、それに近い完璧な場所があった。プンタ・アーラにある12エーカーほどの面積の閑静なビーチである。引退したポロ選手のマルコ・センプリーニが、そこで何頭ものポニーを飼育している。縦11フィート、横幅7フィートもあるキャンピング・カーを置くために、センプリーは喜んでパオラに場所を貸してくれた。

 キャンピング・カーを修復する際、スタイリストであるパオラと息子(彼女は息子のことを「共犯者」と呼んでいる)は、2人が共有しているアウトドアへの情熱、キャラバンの歴史、そしてパオラ自身のキャリアから着想を得たアイデアをとり入れることにした。彼女は以前、バルナバ・フォルナセッティとコラボレーションをしたことがあった。バルナバは現在、彼の父親である画家のピエロ・フォルナセッティがによる装飾美術のビジネスを経営している人物だ。パオラは、フォルナセッティのアイコニックな雲の模様が一面に描かれたイギリスのコール&サン社製の壁紙で、天井、ドア、キャビネットを覆って、ドリーミーな空間を作り上げた。

雲の壁紙を補うように、フォルナセッティのフクロウをモチーフとした壁紙とひらひらしたカーテンをあしらって“夜っぽい要素”も付け加えた。パオラいわく、夜になるとキャンピング・カーとその周辺は、太陽光で充電されたランタンの灯りだけになるのだという。パオラの友達が手染めしたヴィンテージのリネンが、寝台も兼ねた長椅子を覆っている。オルソはここに、同時に2人の友達を泊めることができる。そして、パオラの友人はまた、アルミ製の車体を古いイギリスのランド・ローバーに使われていたような深い緑色に塗った。その緑色は、オークと松だらけの周囲の自然にすんなりと溶け込んだ。

画像: ウズベキスタンの絣の柄であるイカット模様のボウルが置かれた簡易キッチンには、フォルナセッティのフクロウと雲が描かれたコール&サン社製の壁紙が貼られている

ウズベキスタンの絣の柄であるイカット模様のボウルが置かれた簡易キッチンには、フォルナセッティのフクロウと雲が描かれたコール&サン社製の壁紙が貼られている

 モレッティ一家は、昨年の夏のほとんどをプンタ・アーラで過ごした。そして、今後も夏が来るたびにこの場所で過ごすつもりだ。オルソは、キャラバンの中の寝台や屋外にあるハンモックで寝て、ポロ選手の馬の世話を手伝い、ときには観光客を馬に乗せてビーチまで遠乗りをしたりする。彼は、厩舎に吊り下げられたホースでシャワーを浴びる。パオラが寝るのも、もちろんキャラバンだ。そこは、ピカピカで完璧な空間を作り上げることを仕事にするパオラにしてみたら、驚くほどに簡素な寝床だろう。

 濃いオレンジ色に染まったトスカーナの月が紺色の空に昇る頃、オルソはグリルでステーキを焦がし、モレッティは自分のグラスに赤ワインのブルネロを注ぐ。聞こえるのは、近くの海岸の岩に寄せる波の音だけだ。「私たちは、森の中の不思議な小さなあばら家に住んでいるふりをするの」とパオラは言う。「そして実際、その空想を疑う余地はどこにも見当たらないでしょう?」

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