観光地として名高いスウェーデンのゴットランド島。伝統を守り、目立つことには眉をひそめるようなこの島に、近年、続々と現代的な住宅が建てられている

BY NANCY HASS, PHOTOGRAPHS BY MIKAEL OLSSON, TRANSLATED BY G. KAZUO PEÑA(RENDEZVOUS)

 風雨にさらされた風車と、冬のあいだにふさふさと毛が生えた羊たちの群れる野原を横目に45分ほど車を走らせて、オーサ・ミュルダール・ブラットは筆者に会うためにスウェーデンのメインランドから、この島にある彼女自身の別荘へやって来てくれた。ほとんど人通りのない道路沿いに建てられたその家は、無慈悲な草原の火事によって何もなくなった原野にぬっとそびえる、黒焦げの巨大な納屋のように見えた。

ストックホルムを拠点とする42歳の建築家、イェンス・エンフロは、数年前にDEVEアーキテクツと共同でこの家を建てたとき、まさにそんな効果を求めていたのだという。「まるで土地全体がこの家から生まれて成長していくみたいに見せたかったんだ」。建物は、ほとんど黒に近い濃色に染められ松に覆われている。ゴットランド島ではほとんど見ることのないその色は、焼き焦がした杉の板を使う日本古来の工法である「焼杉板」を思い起こさせる。

平らで木がまったくない周辺の立地と対比するかのように、建物は絵画的な均整と透明感をモチーフにつくられている。長さが約80フィート、幅は15フィート弱、高さ22フィートの屋根。ロフト型のベッドルームがひとつだけ。家の前後の壁はどちらも一部がガラスで、内壁もほとんどがガラス製だ。リビングとゲスト用のこぢんまりした棟に挟まれた家の中央部分には屋根に覆われた中庭があり、家全体がむき出しでスケルトンのままであるかのような錯覚を生み出している。

ブランド・コンサルタントで50代のミュルダール・ブラットは、医者の夫とともに、2014年にこの家を購入した。彼女はこの家について、「開放的だけど、温かみがあって居心地のいい家でもあるわね」と言う。たしかに、外見は挑発的で荒れ果て、遠くから見ると現役の家畜小屋から装備を取り払った建物のようでもある。

画像: イェンス・エンフロの建築事務所とDEVEアーキテクツが作った納屋のような家。ゴットランド島の典型的な牧草の生えた平地が、この家から流れて出ているかのように見える

イェンス・エンフロの建築事務所とDEVEアーキテクツが作った納屋のような家。ゴットランド島の典型的な牧草の生えた平地が、この家から流れて出ているかのように見える

 島にある数十軒の現代建築のすべてが、ゴットランド島の自然や農業の歴史と完全に平和的な関係にあるかといえば、そうでもない。むしろその一部は周辺の風景を果敢に挑発している。たとえば48歳の建築家ボレ・タムが家族のために建てた、極めて還元主義的な家もそのひとつだ。軍隊の兵舎のように見えるその家は、土台は石造りで、地元の漆喰でできた外装は炭で色づけされ、コテで平らにならされている。屋内の部屋はすべて中心にある中庭を向いており、夏には納屋の扉のように開け放せる壁いっぱいの窓がいくつもあるにもかかわらず、こぢんまりと閉鎖的な雰囲気を醸し出している。

1階建てだが、部屋によっては何段かの階段を登る必要がある。均一にスラブを敷くために土地の基盤にあった岩を破壊することをタムが反対したからで、彼はこの家は地質に合わせて建てるべきだと考えたのだ。リビングのエリアはほとんどむき出しで、合板で仕上げられたベッドルームはまるで監房のようだ。「ゴットランド島の別荘はどれも似たり寄ったりだったので、石灰岩でできた農家のレプリカではないものを作るべきタイミングだと思ったんだ」と彼は言う。「過去と対話する建物にはしたかったけれど、それは過去を繰り返すというのとは別だからね」

 それにしても、ファロ島行きのフェリーで7分数マイル離れたブンゲネース半島に建てられているいくつかの家屋に比べると、タムが作った納屋のような建造物は貧相で、みすぼらしくさえ見える。49歳の不動産開発業者ヨアキム・キューレンシュティルナは2007年、半島でゲート付きのフェンスで囲まれた400エーカーの土地を購入した。もともとは採石場で、冷戦時代には100個のバンカーが設置された場所だ。

 このブンゲネース半島には現在、30軒以上の家に加えて、コーヒーハウス、客室が6つあるホテル、そして古い納屋をリフォームしたコンサート会場がある。それらすべての施設、それに住宅の大半はスカルソ社がデザインしたものだ。スカルソ社は、キューレンシュティルナが前述のペールソン、建築家の38歳のエリック・ガーデルらとともに立ち上げた会社で、そのきっかけとなったのは、自分たちが望むような最新の別荘地を作り上げられる人間がこの島にいなかったからだという。

彼らが作り上げたこのコミューンは、1960年代に綿密な計画のもとで北カリフォルニアに作られたユートピア「シー・ランチ」を彷彿とさせる。だが、ゴットランド島の場合は戦時施設だったバンカーをとり入れたために、また別の趣を呈している。スカルソ社は、いくつかのバンカーの片側を大きく掘り出して入り口を作ることによって現代風にリフォームし、まるでスウェーデン式のホビットの穴の家のような建築を作り上げた。これら地下住宅のオーナーたちが施している簡素な内装は、だいたいが病院のように殺風景なものだ。ほとんどの住宅は600平方フィート以下の床面積しかないが、経済的なスウェーデン人からすると4人家族にちょうどいいサイズらしい。

 

This article is a sponsored article by
''.