観光地として名高いスウェーデンのゴットランド島。伝統を守り、目立つことには眉をひそめるようなこの島に、近年、続々と現代的な住宅が建てられている

BY NANCY HASS, PHOTOGRAPHS BY MIKAEL OLSSON, TRANSLATED BY G. KAZUO PEÑA(RENDEZVOUS)

 ストックホルムに建築事務所をもち、フィットネスクラブのデザインを多く手がける建築家のハンズ・マーマンと、妻で同じく建築家のウラ・アルバーツは、ゴットランド島でさまざまな建築を実験するのにはじつに理想的な立場にあった。彼らが「ジュニパー・ハウス」を建てた人里離れた土地は、もともとウラの家族が所有していたのだ。いまも残っている両親の赤い小さな別荘で、彼女はいくつもの夏を裸足で過ごしてきた。

自分たちの家を計画するのに先立ち、夫妻は2.2エーカーの土地に親族のための建物をいくつかデザインした。結果、それらの建物は期せずして、彼らのデザインの進化図のようなものになった。この土地には、夫妻が新婚のときに建てたアトリエ(ささやかな小屋にすぎないが)や、 いま54歳のウラがかつて建築学校に在校していたときに書いた設計図をもとに、兄弟のために2002年に石灰岩で建てた簡素な2階建の農家もある。また、木造のとんがり屋根と鮮やかなオレンジ色がアクセントになった1,700平方フィートのミッドセンチュリー調の別荘は、夫妻がウラの姉妹のために2014年に完成させたものだ。

画像: (写真左)建築家のユニットであるハンズ・マーマンとウラ・アルバーツの夫妻が手がけた住宅は、周辺のジュニパーの木の実物大の写真が印刷されたシートに覆われている (写真右)スカルソ社が住宅に変身させた冷戦時代のバンカー(掩蔽壕:えんぺいごう)には高さ43フィートのミサイル倉庫があり、その地下3階に大理石が敷かれたハマム(中東でよく見られる伝統的な公衆浴場)がある

(写真左)建築家のユニットであるハンズ・マーマンとウラ・アルバーツの夫妻が手がけた住宅は、周辺のジュニパーの木の実物大の写真が印刷されたシートに覆われている
(写真右)スカルソ社が住宅に変身させた冷戦時代のバンカー(掩蔽壕:えんぺいごう)には高さ43フィートのミサイル倉庫があり、その地下3階に大理石が敷かれたハマム(中東でよく見られる伝統的な公衆浴場)がある

夫妻が自分たちのデザインを究極まで打ち出した家を完成させたのは、10年以上前のことだ。高さ15フィートのジュニパーの林の中に隠れるように建つその住居は、まわりの木々と会話をしているかのようだ。71歳になるマーマンは、針葉樹の写真を撮り、そのイメージをビニールの幕に原寸大でプリントして革新的な外装を作り出した。壁画のようなその外装は、建物の壁から2フィート外側に亜鉛メッキの鉄骨で組まれた木製の外壁に巻きつけられている。

彼らの2人の息子たちのために建てられたわずか540平方フィートのこの家は、ヨットの構造のような独創的なつくりをしている。日中は森の中に溶け込んでしまうその姿は、現代的な建物は景観を損ねるのではと懸念していた地元の当局者に対するちょっとした意趣返しとなった。夜になると、家はイサム・ノグチが和紙でデザインした照明器具のように光を放つ。「ここでは、私たちは自分たちだけの世界にいられる」とマーマンは言う。「これらの家にはあらゆる時代、あらゆる世代が内包されているんだ。このあたりを歩くだけで、時を超えて旅することだってできるんだよ」

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