この4月にイタリア・ミラノで開催されたデザインウィーク中、家具ブランドはもちろん、様々な企業が市内で展示を開催。なかでも、ファッションデザイナーやブランドがこれまでに試みたことのない領域に踏み出した取り組みに注目する

BY KANAE HASEGAWA

クリス・ヴァン・アッシュによるブロンズ花器のコレクション

画像1: Photo by Dfphoto Courtesy of Laffanour Galerie Downtown Paris

Photo by Dfphoto Courtesy of Laffanour Galerie Downtown Paris

 ベルギー出身のファッションデザイナー、クリス・ヴァン・アッシュ(Kris Van Assche)はイヴ・サン・ローランを経て、2005年に自身の名前を冠したブランド「KRISVANASSCHE」を立ち上げ、2015年まで手がけた。一方で同時期、2007年から10年以上にわたってディオール・オムのクリエイティブディレクターを歴任するなど、ファッションデザインで輝かしいキャリアを築いてきた。フォーマルな仕立てを基本にしながら、ストリートやスポーツの要素をミックスさせた彼のスタイルは、メンズファッションに新たな風をもたらしたと言われている。そんな彼がはじめて、ブロンズによる花器のコレクション「Nectar Vessesl」に挑戦し、ミラノデザインウィーク期間中に展示を行った。

画像: クリス・ヴァン・アッシュ Portrait by Dfphoto

クリス・ヴァン・アッシュ

Portrait by Dfphoto

「Nectar Vessels」は7型2色展開のブロンズの花器のコレクション。形そのものは原始的なほど力強い。その上にターコイーズグリーンや蛍光オレンジ色の塗料を重ねることで、ブロンズの持つ重厚さにポップさを与えていた。「ブロンズのもつ古めかしい素材という印象を変えたかったんです。僕にとってブロンズは、何世紀も昔の邸宅の煙突の先端に用いられる重厚なイメージが強かった。今回は、そうした素材を現代的なオブジェに変えたいと思って取り組みました」とヴァン・アッシュは言う。

画像2: Photo by Dfphoto Courtesy of Laffanour Galerie Downtown Paris

Photo by Dfphoto Courtesy of Laffanour Galerie Downtown Paris

 無類の花好きである彼は、かねてより花器をデザインしたいと思っていた。しかし、ブロンズという素材を扱うのは初めてだ。彼が実際にメタルを鋳造したわけではない。フランスにある人口約3000人のポル・ス・スン村の、歴史ある鋳造所が制作を担った。四半世紀にわたって服作りをしてきたヴァン・アッシュにとって、ブロンズでモノを作ることの意義は何だったのだろうか?「僕にとって、服作りとブロンズの花器づくりは似ています。ファッションでは伝統的な仕立て職人と仕事をしてきました。伝統に現代風の感覚を取り込もうとするとき、テーラー職人は古典的な仕立てにひねりを利かせたデザインに難色を示します。どうやったら実現できるのか、相談しながら進めます。これはブロンズも同じ。熟練したブロンズ職人たちから学びつつも、従来のクラシックなモノづくりとは異なる新鮮な表現を実現するために、時間をかけて挑戦をしてもらいました」という。

 花器の色使いも目を引く。ブロンズとは思えない、陶器でもなかなか見ないカラーリングだ。「実は色使いも僕のファッションデザインと関連しています。僕のデザインには黒地の表生地に、鮮やかなオレンジの裏地を縫い合わせたジャケットがあります。それと同様に黒い花器に開けた穴から、内側に施したオレンジ色が見えるデザインです」。服作りにおいて建築的なデザインで知られるヴァン・アッシュらしい造形言語の花器に、ミラノデザインウィーク中も注目が集まっていた。なお、今回の展示は、「Laffanour | Galerie Downtownとのコラボレーションで開催された。

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シアスター・ゲイツの日本文化を取り入れた作陶

画像1: Chawan Cabinet by Theaster Gates Photo Empty Space

Chawan Cabinet by Theaster Gates Photo Empty Space

 一方で、シカゴ出身の現代アーティストで、日本文化や暮らしに心酔するシアスター・ゲイツは、日本人に宿る“もてなし”の心を、玄人はだしの作陶を通して披露した。ゲイツは2004年に愛知県の常滑焼と出合って以来、常滑の窯元を頻繁に訪れ、自ら作陶に励んできた。常滑焼は歴史があるにもかかわらず、茶事で格の高い楽焼とは異なり、日常使いの生活用具とされてきた。そのことに彼は惹かれてきたという。日常使いの器だからこそ人々の生活に寄り添い、家族や友人たちとの団らんの場で使われる、という考えだ。ゲイツはそこに“もてなし”の心を見出した。

画像2: Chawan Cabinet by Theaster Gates Photo Empty Space

Chawan Cabinet by Theaster Gates Photo Empty Space

 展示空間となったのは、ミラノのプラダのショップ。デザインウィークの期間中、ショップはゲイツがキュレーションした「Chawan Cabinet」という空間に様変わりしていた。床にはゲイツが常滑の水野製陶園と協働して開発したタイルが敷き詰められ、壁は日本の左官技術を活かした土壁仕上げ。棚には夥しい数の茶碗、湯呑、ぐい呑、徳利といった飲むための器が並び、まるで窯から出てきた器を並べた作陶所のようだった。これらの作品は、ゲイツが常滑とシカゴにある自身の窯で作陶した器を中心に、彼が日本で親交を深めてきた黒木泰等、平野祐一、田端志音、大原光一らによる作品といずれの優越を感じさせないほど溶け込んで展示されていた。

画像: Chawan, ceremonial tea bowl

Chawan, ceremonial tea bowl

一方で彼は「日常的に用いられる湯呑は異なる時間性、継続性をもつ」と考えている。より形式にとらわれず、日々の生活に寄り添い、日常の団らんを象徴する存在だ。また、「ぐい呑や徳利は、飲むという行為を共有の体験へと広げ、手から手へと渡されることで信頼やつながりを強固にするもの。こうした器において、モノは人が集う契機となり、関係性が生まれるインターフェースとして機能する」と捉えている。飲む文化、所作、そこから広がる人間関係を観察し、日本文化の真髄を理解しているゲイツの洞察に、日本人ながらも目が開かれる思いだった。彼は器というものを、所有すること以上に体験するための道具、オブジェ以上に人と人との関係を生む存在としての認識を促している。

画像3: Chawan Cabinet by Theaster Gates Photo Empty Space

Chawan Cabinet by Theaster Gates Photo Empty Space

 展示期間中、限られた席数であったものの、連日茶席が設けられた。ショップの奥に中庭が設けられ、そこに日本の茶室建築家による茶室が誕生していた。京都から渡航した裏千家の茶人による点前で、茶をたて、ふるまい、茶碗で飲むという一連の体験をイタリアの人たちに提供した。

 プラダはこれまでも知的探求の一環として、ミラノデザインウィーク期間中に、デザインの専門家たちによる思考の交換の場を設けてきた。その姿勢が、今回のゲイツとの対話を通して、暮らしの空間という領域へと広がりを見せたようだ。

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