彼は仕事でびっしり埋め尽くされそうなスケジュールの合間にも、必ずオフの時間を組み込む。なにか文句があるならエージェントに電話してくれ、とのことだ

BY JON CARAMANICA, PHOTOGRAPHS BY PETRA COLLINS, TRANSLATED BY G. KAZUO PEÑA(RENDEZVOUS)

画像2: サミュエル・L・ジャクソン流の生き方

「一部の監督にとって、俺は扱いにくい“親方”なのかもしれない」とジャクソンは認める。少なくとも彼が現場にいるあいだは、彼こそがまさにボスだ。彼の出演契約には、必ず週2回のゴルフを認める条項が含まれている。そして彼は余分なテイクを撮るのが大嫌いだ。ジャクソンは言う。「俺にはわかるんだ。『あー、ここは最終的にはカットされるんだろう? 今のでじゅうぶんだ。さっき、これとあれをやっただろう?  もう一度あれはやらないよ』っていうときがね」

「こんな時はたいてい、監督や製作スタッフは俺のエージェントに電話をしたいと言い出すんだ」。そう言って、彼はサミュエル・L・ジャクソン特有の、口をとがらした傲慢な呆れ顔を作った。「エージェントだろうが誰だろうが電話すりゃいい。なんてったって、もう一度はやらないんだから……」。この続きは読者の想像におまかせしよう。

 ジャクソンがニューヨークにたどり着いたのは、1976年のハロウィーンの晩。それからの何年間か、舞台役者としてキャリアを積むことになる。その当時の仲間はというと、デンゼル・ワシントン、ウェズリー・スナイプス、アルフレ・ウッダードら、同時代を代表するそうそうたる顔ぶれだ。「金を出しあって一緒にメシを食ったり、週末になればつるんで遊びに行ったり。同じ職業紹介所にも通った仲だ」とふり返る。

 彼はパブリック・シアターというニューヨークの劇場の上演作の常連になり、やがてテレビのシチュエーション・コメディ『コスビー・ショー』の主役、ビル・コズビーのリハーサル代役を3シーズン務めるようになった。そしてついに、彼が言うところの“スパイク・リーのサマー・キャンプ”に入隊することになる。

画像: ジャクソンは余分なテイクを撮るのが大嫌いだ。「俺にはわかるんだ。『あー、ここは最終的にはカットされるんだろう? 押さえなら今のでじゅうぶんだ。さっき、これとあれをやっただろ。もう一度はやらないよ』ってときがね」と彼は言う

ジャクソンは余分なテイクを撮るのが大嫌いだ。「俺にはわかるんだ。『あー、ここは最終的にはカットされるんだろう? 押さえなら今のでじゅうぶんだ。さっき、これとあれをやっただろ。もう一度はやらないよ』ってときがね」と彼は言う

 以来、彼は絶え間なく、そして無我夢中に働いてきた。ひとつには、ずっと以前、あるキャスティング・ディレクターが「仕事と仕事のあいだに数ヶ月も休むような俳優にはオファーをしない」と言っていたことが頭に残っていたこともある。

 ジャクソンは、大がかりな映画だろうが小規模作品だろうが、アニメーション映画だろうが実写だろうが、また映画でもCMでも、仕事をする上で区別はしない。大物俳優はあまり出たがらないCMについても、自分が出演している米国大手地方銀行キャピタル・ワンのCMのことを熱く語ってくれた。「あるとき家でテレビを見ていたらあのCMが流れてきた。見終わると、『What’s in your
wallet? (お宅の財布には何が入ってる?)』っていうコピーをひとり言みたいに練習していたんだ。自分ならどういう風に言おうかって考えながらね。だから、その仕事の話がきたときは即、OKしたよ」

 ほかにも、10年以上前、イギリスのバークレイズ銀行のCMに演したと教えてくれた。アシスタントのヴォルニーに携帯でショート・メッセージを送り、ノート・パソコンを持って来させて、それらのCMをYou Tubeで観せてくれた。「みんな最高だね」とあれこれクリックしながら見ていたジャクソンは、モンスーンの嵐の中で撮影されたらしい一本を選び出して言う。「こいつはヤバいくらい良い。撮影中は悲惨だったけどな」

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