プラネタリウム・クリエーターとして早20年、前例のない仕事を積み重ねてきた大平貴之。彼は今、「星空を見ること」の意味を考えている

BY TOMOSHIGE KASE, PHOTOGRAPHS BY SHINSUKE SATO

「大平技研を立ち上げたのは2005年。事業計画は白紙です(笑)。いや、独立してから、イベントや目先の仕事はいろいろとこなしていたんです。川崎市青少年科学館や日本科学未来館に『MEGASTAR』を納入したり。そうこうしているうちにJAXA(宇宙航空研究開発機構)と共同研究をする話が進んで、いよいよ契約となったときに、『御社は……』『いや、会社はないんですよ』『えっ!?』というやりとりになって(笑)。法人格がないと取引できなかったんで、あわてて会社を作ったんですよ。社名もその時に急いで決めました」

 本人は笑い話にしているが、このあたりも同世代の一労働者としては痛快だ。ただただ好きでプラネタリウムを作ってきた男が、国家機関であるJAXAと契約。「そのほう屋号を申せ」「いや、こちとら一本独鈷の職人でして、プラネタリウムを作るだけで」――。そんな時代小説のようなやりとりが浮かぶ。この男にはどうも肩入れしたくなる何かがある。おそらく多くの取引先が、「大平さんと何かやりたい」という気持ちで仕事をしているのだろう。

 JAXAとの取り組みで、コンピュータグラフィックスを使ったデジタル映像と大平のプラネタリウムを組み合わせて宇宙の魅力をアウトリーチするというプロジェクトは、2005年の愛知万博で発表された。同年、家庭用プラネタリウム「HOMESTAR」が爆発的にヒットしたり、大平の著書『プラネタリウムを作りました。』がテレビドラマ化されたりと、“プラネタリウム・クリエーター大平貴之”の名はにわかにあまねく知られることになった。

画像: これまでに成し遂げた前人未踏の業績をフィクション交じりに、まるで冗談のように話す。プラネタリウムに魅せられた小学生の頃から変わらない、少年のような屈託のない人柄を感じさせる

これまでに成し遂げた前人未踏の業績をフィクション交じりに、まるで冗談のように話す。プラネタリウムに魅せられた小学生の頃から変わらない、少年のような屈託のない人柄を感じさせる

「好きなことを仕事にすると、好きなことに対する意識が変わってしまう、なんてよく言われますが……小学生の頃にプラネタリウムを作っていたときも今も、もの作りの感覚はほとんど変わらないですね。ただ、小学生のときは自分一人が楽しめれば良かった。でも今は多くの人に星空を見せるわけで、そうなると見せる責任が出てくるんです。そこが面白みというか、醍醐味になっていますね」

 そう語る大平の最新のプロジェクトが、2018年1月27日(土)から4月9日(月)まで東京タワーで開催中の、VRを使ったアトラクション型プラネタリウム「MEGASTAR JOURNEY(メガスター・ジャーニー)」。ヘッドマウントディスプレイを装着して“時空エレベーター”に乗り、銀河系周遊の旅に出るというアトラクションだ。最大6名まで一緒に体験し、宇宙空間を自在に歩き回ることができる。

画像: 2018年、開業60周年を迎えた東京タワーの地下で、60年前、大平田博士という天才科学者が秘密に開発していた「時空エレベーター」という乗り物が発見されたが... © D.N. dreampartners L.L.P.

2018年、開業60周年を迎えた東京タワーの地下で、60年前、大平田博士という天才科学者が秘密に開発していた「時空エレベーター」という乗り物が発見されたが...
© D.N. dreampartners L.L.P.

 大平自身が以前から考えてきたことを伝えるために、今回取り組んだVRという最新技術が役に立ってくれるはずだという。

「若いときにはあまり考えませんでしたが、最近、星空を見ることにどんな意味があるかをよく考えるんです。端的に言うと、宇宙の大きなスケールを知ってもらうことは社会にとって大事である、ということなんですが。今の社会は混沌としていて、環境問題をはじめ、さまざまな問題が山積しています。この先、人間の社会がどれだけ存続するのかすらよくわからないという現実がある。それを直接的に感じたのは2011年の東日本大震災のときですが。

 宇宙の中の地球に僕らが住んでいる――その感覚を、そういう現実を、世の中の人に知ってもらうことはとても大事だと思うんです。授業のような形式ではなく、身体で知ってもらう。今回の『MEGASTAR JOURNEY』は、前後左右、上下はもちろん背後まで、360度全方向で星空を体験できます。VRという最新技術が私たちに何をもたらしてくれるのか。そのことに、今いちばん興味を引かれています」

画像: © D.N. dreampartners L.L.P.

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 インタビューを終えて趣味の話をした。飛行機の操縦免許を取るために定期的にLAの訓練所に通っていて、3月にはその免許が取得できそうだということ。会社の敷地にプランターを設置して野菜を収穫していること。メロンまで栽培していること。2012年からボクシングジムに通っていること。リーチ(腕の長さ)が長いのでどうやらボクシングには向いていること。

 うっかり「プラネタリウムに憑りつかれた男」の判を押そうとしていた私だったが、この人物にはまだまだ引き出しがありそうだ。そして何かの拍子に「プラネタリウム以外」に没頭してしまいそうな気配もある。そんなある意味での危うさもまた、彼の魅力なのかもしれない。5年後、10年後にも再び会って、今は何をやっているのかと話を聞いてみたい――大平貴之はそんな男だった。

大平貴之(TAKAYUKI OHIRA)
1970年川崎市生まれ。プラネタリウム・クリエーター。1991年、大学3年生でそれまで専門企業でなければ製作できないと言われていたレンズ投影式プラネタリウムを個人で完成。大学院を修了後、ソニーに就職。勤務する傍ら、個人でのプラネタリウム製作を続け、1998年、従来の100倍以上の数に相当する170万個の星を投影できる「MAGASTAR」を発表。2004年「MEGASTAR-Ⅱ cosmos」が「世界で最も先進的なプラネタリウム投影機」としてギネスに認定。05年にソニーを退社し、大平技研を設立。日本大学優秀賞、川崎アゼリア輝賞、日本イノベーター大賞優秀賞(日経BP 社)、文部科学大臣表彰・科学技術賞など受賞歴多数。www.megastar.jp

「MEGASTAR JOURNEY(メガスター・ジャーニー)」
会期:2018年1月27日(土)~4月9日(月)
場所:東京タワーホール
住所:東京都港区芝公園4-2-8 東京タワー フットタウン B1階
営業時間:10:00~21:00
定休日:東京タワー営業日に準ずる
料金:一律¥1,800(税込)
当日チケットはイベント会場、前売チケットはローソンチケットにて販売中。なお、前売りチケットは日時指定、購入期限は各指定日の3日前まで。
※イベント詳細、注意事項などについては公式サイトをご覧ください。
公式サイト

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