現在生きている最も偉大な舞台作詞家――60年以上のキャリアを通して、ソンドハイムは仲間たちの力も借りながら、アメリカのミュージカルをつねに革新してきた。そして今ふたたび、彼は私たちを驚かそうとしている

BY LIN-MANUEL MIRANDA, PHOTOGRAPHS BY COLIN DODGSON, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

画像: ソンドハイムのコネッチカットの自宅のテーブルの上にはゲームやパズルがずらっと並んでいる。材木型の箱にはドミノが詰まっている。52枚のトランプのカードに象牙色のワード・カード。「これで、みんなが煙草を吸わないで遊べるから」と彼は言う

ソンドハイムのコネッチカットの自宅のテーブルの上にはゲームやパズルがずらっと並んでいる。材木型の箱にはドミノが詰まっている。52枚のトランプのカードに象牙色のワード・カード。「これで、みんなが煙草を吸わないで遊べるから」と彼は言う

 話を現在に戻そう。『ハミルトン』はもう完成した。そしてソンドハイムの仕事の予定は相変わらずぎっしりだ。

ミランダ:あなたは、今やっている仕事にどうやって区切りをつけて次に行くんですか?

ソンドハイム:そうだな、私は仲間と共同作業をする。彼らと仕事をしてると、ひらめきが浮かんでくるんだよ。ジョン・ワイドマン(※1)のところに行って、「何かほかの作品を書こう。アイデアはあるかい?」って聞くんだ。どんな作品でもそう。私は共同作業しないといられない人間なんだ。

ミランダ:私も同じです。違うのは、私の仕事仲間はトニー・カイル(※2)だってことですが。

ソンドハイム:私には刺激が必要なんだよ。刺激や、やる気を起こさせてくれるものは、たいてい誰かほかの人間が与えてくれる。『スウィーニー』(※3)を書いた時だけは、自分ひとりで思いついて「おお」と感動したけれどね。いや、違うな、『パッション』(※4)の時もそうだった。その2回だけだよ。

ミランダ:その『スウィーニー』の時、あなたはオリジナルの文章を元にしていて、「作家が必要だ」って言ったんですよね?

ソンドハイム:そうだ。あの時はサミュエル・フレンチ社(※5)が出版した本の文章を元にしていて、ボンドが書いた脚本の8ページ目までいったんだ。あれはたぶん、市場の場面(※6)だったと思う。そこまでで、すでに1時間半の長さになっていた。それで思ったんだ。「これじゃダメだ。どうやって短くしたらいいか全然わからないぞ」ってね。短くすることはできただろうが、うまいやり方がわからなかった。だからヒュー・ウィーラー(※7)を呼んだ。彼は英国生まれで破産裁判所の裁判官の息子だから、階級制度について知識がある。それに彼とは『リトル・ナイト・ミュージック』で一緒にいい仕事ができた。さらに、君も知ってるように彼は推理小説作家でもあったしね。彼は米国で最も多くの作品を書いた推理小説作家のひとりだよ。パトリック・クウェンティンというペンネームで(共同)執筆していた。

ミランダ:私が一番好きなのは、仲間たちに自分の書いた詞を見てもらう時ですね。それが創作過程の中で一番好きです。執筆中や、作品を書き上げた時よりも。仲間が私の作品をよりいいものにしてくれるとわかる瞬間ですし。

ソンドハイム:それは共同作業の中で、私が一番好きじゃない部分だな。自分が書いた詞がものすごく気に入ってるなら別だけど。

ミランダ:え、そうなんですか?

ソンドハイム:気に入ってる作品なら仲間に見せるけどね――いや、やっぱり違うな。仲間に詞を見せる時に、私は君みたいにワクワクはしないから。そもそも私は作家にしか見せない。監督には見せないんだ。作品ができ上がるまで監督には知らせたくない。つまり、私と仕事仲間だけでやるんだ。だけど、ラピン(※8)は、まだ完成していない詞を見せろって言ってきた初めての監督だった。私は完成してない詞は決して見せないことにしてるんだが。

ミランダ:彼に見せて、よかったですか?

ソンドハイム:いや別に。彼にとっては意味あることだったみたいだが。

ミランダ:まあ、裸になるような感じですよね。

ソンドハイム:まさにそうだ。シャワーを浴びてからなら、裸になってもいいけどね。

※1 ジョン・ワイドマン
ソンドハイムのミュージカル『太平洋序曲』(1976年)、『アサシンズ』(1990年)と『ロードショウ』(2008年)の脚本家。トニー賞最優秀ミュージカル作品賞受賞作の『コンタクト』も手がける。多方面に秀でた信頼すべき才人。

※2 トミー・カイル
『ハミルトン』(2015年)と『イン・ザ・ハイツ』(2005年)の演出家。その他作品多数。同じく信頼のおける人物。大学時代から一緒だった、私の信頼する才人。

※3 スウィーニー
『スウィーニー・トッド』。人殺しの理髪師を描いたソンドハイムの1979年のミュージカル。

※4 パッション
ソンドハイムのトニー賞受賞作品。普通ならあり得ないような恋愛を描いたエットーレ・スーコラ監督作品の映画『パッション・ダモーレ』(1981年)を元に、ジェームズ・ラピンの脚本で、一幕完結のミュージカルとして1994年に上演。

※5 サミュエル・フレンチ
サミュエル・フレンチ社は、1854年に設立された戯曲専門出版社。ソンドハイムは1973年に同社が出版したクリストファー・ボンド版の『スウィーニー・トッド』を下敷きにミュージカルを書いていた。ボンド版『スウィーニー』の原作は、1840年代に出版された大衆小説。

※6 市場の場面
主人公がひげ剃り大会で地元ライバルと闘う場面。

※7 ヒュー・ウィーラー
ソンドハイムの『リトル・ナイト・ミュージック』(1973年)の脚本家。

※8 ラピン
ジェームズ・ラピン。劇作家であり監督。ソンドハイムとの共作は『サンデー・イン・ザ・パーク・ウィズ・ジョージ』(1984年)、『イントゥー・ザ・ウッズ』(1987年)そして『パッション』(1994年)。

ブロードウェイの伝説の男 スティーブン・ソンドハイム。その表現哲学を語る<後編>

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