おかしくて明るくてせつない、一篇の詩のように美しい小説がフランスで50万部のヒット作に。35歳にして華々しいデビューを果たした著者にインタビューした

BY ANNE AKEBONO, PHOTOGRAPHS BY KIKUKO USUYAMA

画像: 少年のように輝く緑青色の瞳が印象的なオリヴィエ・ブルドー氏

少年のように輝く緑青色の瞳が印象的なオリヴィエ・ブルドー氏

 昨年フランスで、奇跡のような小説が、ボルドーの小さな出版社から刊行された。『ボージャングルを待ちながら』。作者オリヴィエ・ブルドー、35歳でのデビュー作だ。

 每日、妻を違った名前で呼ぶホラ吹きパパ。「現実がありきたりだったり、悲しかったりしたときには、面白い作り話を聞かせて」というママ。見事な鏡文字を書くディスレクシア(読字障がい)の息子。「この子の美的センスが崩れてしまいます!」と両親は息子を小学校から退学させ、一家の日常はパーティ三昧のどんちゃん騒ぎでキラキラと輝いている。しかし、そんな日々は長くは続かない。続かないことがわかっていた父親と、両親の言葉をまっすぐに受け止めていた息子。ふたつの声で語られるこの家族の物語に、いつしか読者は巻き込まれ、笑いながら、泣きながら、高く高くジャンプし、そして、ひらりと着地することになる。一家にいつも流れている、ニーナ・シモンの『ボージャングルを待ちながら』の歌のように。

 この本は発売されるやたちまち本国で50万部を超える大ヒットとなり、世界30カ国での翻訳、映画化・舞台化・BD(バンデシネ)化が決定した。来日した著者に、話を聞くことができた。

画像: 風変わりで、きらめくような愛情に満ちた家族を描いた物語 『ボージャングルを待ちながら』(¥1,700/集英社)

風変わりで、きらめくような愛情に満ちた家族を描いた物語
『ボージャングルを待ちながら』(¥1,700/集英社)

 軽さと重さ、喜劇と悲劇が入り混じったこの物語の構想は、どこから生まれたのだろう?「この小説を書くために私が持っていた時間は7週間です。両親のいたスペインで、書くことだけに集中できる時間でした。7週間後にはフランスに戻らなければならなかったので、必死になって書いたわけです。始めから全体の構想があったわけではなく、ひとつの文章がきっかけになって、そこから、まさに走るように書きました」
 いつも瞳にいたずらっ子の光をたたえているブルドー氏。質問に対しては、とても真剣に、集中して言葉を探す。

「じつはその直前、2年かけて構想を練り、2年かけて書き上げた500ページの“暗くて重い”小説があったのです。出版社に送ったものの、どこも出版してくれませんでした。人生で初めて落ち込んだ6ヶ月の後、パリから2時間のフライトでスペインに着き、カフェに寄ると、ジャスミンとバラの香りがして、ジャズが流れ、人々がにぎやかに語らっていて――。そのカフェにいた5分間で、この小説の雰囲気が決まりました」

 それから毎朝5時半に起き、パソコンに向かって書き進めたのだという。「非常に密度の濃い時間で、ちょっとした興奮状態にありました。ひとつめの文章を書いて読み直したとき、私は笑い転げて、もっと真面目に書けと自分に言い聞かせたくらいです(笑)。最後の部分は、書きながら笑い、泣きながら書きました。そんなふうに集中し、自分も感動しながら書けたことは、私にとって大きな喜びでした」

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