ナタリー・ポートマンと、作家のジョナサン・サフラン・フォアがネット上で再会した。過ぎゆく時の流れと、その中で、お互いがどう変わってきたかを、心機一転、再び語り合うために

PHOTOGRAPHS BY CRAIG MCDEAN, STYLED BY MAX PEARMAIN, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

2016年5月25日(水)午前5時44分
ジョナサン・サフラン・フォアより

 今、朝の6時近くだ。息子たちはまだ眠ってる。モルモットたちがゴソゴソ動く音が聞こえる。いや、もしかしたら、悪い夢を見て、その名残が寝ぼけた僕の頭の中に残ってるのかもしれない。小説家にとって、孤独であることと、スランプに陥ることが二大障壁だといわれているけど、実は、本当にいちばん大変なのは、毎日モルモットの世話をしなきゃならないってことなんだ。

『A Tale of Love and Darkness』は君にとって、構想から製作まで全部、自分自身で思いついた、最初のプロジェクトだったよね?(映画はアモス・オズの書いた同題の自叙伝が原作になっているけど、その原作を選んだのは君だし、彼の原作に忠実に脚本を書いたのも君だ)この映画はいろんな面で、大好きだ。細部にわたって精密に作られているのに、同時に、個人的な主観が思いきり表現されているところとか、視覚的にも、言語的にも美しいところとか。でも何よりも、君がこの映画にどれだけ全神経を注いできたかってことに感動した。友達だからそう感じたんじゃないんだ。僕が夢中になる芸術は、いつだって、作り手の熱い情熱が伝わってくるタイプの作品って決まってるんだ。 情熱を表現するのに、自由というものは必須条件ではないかもしれないけど――本能に従えない状態に置かれてしまうことが、時として表現に役立ったりするし――でも、情熱と自由というものは、深いレベルで結びついていて、分離しがたいものだよね。自由というものを、君はどう考える? どんなときに、もっと自由があったらと渇望する? そしてまた、どんなときに、いっそこんなに自由がなければよかったのにと強く思ったりする?

 あ、誰かが階段を上がってくるのが聞こえる。あの足音は犬や猫じゃないな。やれやれ。

22016年5月26日(木)午前3時36分
ナタリー・ポートマンより

 昨日、私の義母が、フランス語で、ある物語を話してくれたんだけど、そのときにモルモットという言葉を使ってた。フランス語でモルモットは「cochon d'inde」だけど、直訳すると「インドからきた豚」になっちゃう。いったいどれが正しいのかな?

 私の初監督作品で、オズの自叙伝を原作にしたのは、いろんな意味で、しごく当然の選択だった。イスラエル建国時代の頃のオズの家族の話は、私が小さい頃父から聞かさ れた父の家族の話にすごく似ていたから。ヨーロッパ風のものをとにかく崇拝していた こと、砂漠に阻まれた難民、常に暴力にさらされていた当時の雰囲気、政治についての討論、そして、書物や物語や言語に恋い焦がれる気持ち、宗教や軍隊や社会主義のアマルガム(合体)の中で、女性として生きることなど。両親たちがみな殺されてしまったときにユートピアのような共同体を作るという暗い幻想や、先駆者や新しいイスラエルの 男についての神話などもそうだし。オズの本に書かれているテーマには、無性に惹きつけられてしまう。いったい神話のどれくらいの部分が歴史を正確に反映したものなのかという問いや、何度も何度も口承されることによって、物語がどこまで固定化してきたのかという点も興味が尽きない。

 この映画のことを人に話すまで、このテーマを選んだことが、人から過激だと思われるなんて、私、気づかなかった。イスラエルを舞台にしたら、たとえそれが少年とその母親の間の愛の物語であったとしても「勇気あるね」と言われてしまう。よく思うのは、 誰にとってもニュートラルで、まったく利害関係がない、問題になる要素がいっさいな い土地の出身だったらよかったのにってこと。たとえば「ハーイ、私フィンランド人です」ってな具合にね。でも、イスラエルという土地とその物語は、ほかの何とも全然違うレベルで私に迫ってくるってことを知ってるから。さまざまな相反する物事が、どれも同時に真実であるのだということを、私が理解できるようになったのもイスラエルのおかげ。まるで、あなたが10年ぶりに執筆した小説『Here I Am』で書いたテーマみたいにね。あなたが前作から10年後に再び小説に挑戦したのも初めてのことだし、ハムレットの「生きるべきか死ぬべきか」ならぬ「生きるも死ぬも」って感じよね。私、これまでの人生の大部分をイスラエルの外で暮らしてきたから、イスラエルのことは、遠くから聞いたり、読んだり、考えたりしてきた。でも、自分の人生の中で、イスラエル以 上にいろいろ思いを巡らせてきた国はない。ヘブライ語という言語を使った時代もの映画で、その中で自分が演技もするとなると、初監督作としては、とてつもなく難しかったけど、だからこそ私の映画なんだと思う。

 この続きはまたあとでね。夜中の撮影中なの。今午前3時半。イギリスでは日の出は午前4時50分なのよ。もし太陽が昇ればの話だけどね。

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