
大ヒットしたアルバム『レッツ・ダンス』に伴う、1983年の『シリアス・ムーンライト』ツアーより
KEVIN CUMMINS, PREMIUM ARCHIVE/GETTY IMAGES
そういえば、2004年に心臓発作で手術を受けたことを機に活動を休止し、しばらく本名のデヴィッド・ジョーンズとして普通の生活を送っていた彼は、近年ほとんど公の場で語ることがなく、ますますミステリアスな存在になっていた。そう、浮世離れしたキャラクターの数々を演じた彼にとって、1965年から名乗っていた“デヴィッド・ ボウイ”もまた、ひとつのキャラクターだ。来年1月に東京で始まる展覧会『DAVID BOWIE is』では、1969年にボウイが披露したマイムのパフォーマンス『ザ・マスク (ア・マイム)』の映像を見ることができる。とある仮面を手に入れた青年が、それを被ることで一躍スターになったものの、いつしか仮面がはずれなくなって現実と虚構の境が見えなくなる―という内容だ。キャラクターが独り歩きすることの怖さを早くから意識していた彼は、私生活を頑なに守ってきたのである。いつでもジョーンズに戻れるように。本名が至極平凡な名前だというのもできすぎた話じゃないだろうか?

1997年の『アースリング』ツアーより。衣装はすべてアレキサンダー・マックイーンが手がけた
PHOTOGRAPH BY MASAYOSHI SUKITA
ちなみに『DAVID BOWIE is』には、ボウイがひそかに維持していたアーカイブの収蔵品が多数展示されているが、そのアーカイブには彼の全活動を網羅する資料が7万点以上保管されているという。同展のキュレーターである、英国のヴィクトリア・アンド・ア ルバート博物館のジェフリー・マーシュいわく、このようなケースはきわめて稀。「私たちはたいていの著名ミュージシャンとコンタクトをとってきましたが、価値のあるアーカイブなど誰も持っていない。ものを大切にとっておくなんてロックな行為ではないですし(笑)、妻や夫とも別れ、バンドは解散し、何もかも失われてしまう。でもボウイは違った。しかも何が面白いって、保管されているのはすべてキャラクターに関するもので、デヴィッド・ジョーンズに関する資料はアーカイ ブにはいっさいない。彼は架空のキャラクターを核に、ひとつの博物館を作り上げたようなものですね」
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