BY HIROKO SHINTANI

キャリア最後のツアーとなった、 2004年の『リアリティ』ツアーより
JON FURNISS, WIRE IMAGE/GETTY IMAGES
そこまでしてふたつの人格を切り離していたがゆえに、余計に私たちファンは、“デヴィッド・ボウイ”は生身の人間とは異なる存在だと思い込んでいたふしがある。死なないはずの人が死んでしまったという現実に折り合いをつけるには、彼を人間化する必要があった。どんなに些細であれ、ここで挙げたような逸話に人々が夢中になる理由は、そこにあるのだろう。デヴィッド・ボウイがデヴィッド・ジョーンズだったことを、受け入れようとしていたのだ。
そんなイリュージョンの達人は、2013年にアルバム『ザ・ネクスト・デイ』を発表し、もう一度“デヴィッド・ボウイ"に戻ると、『★』に至ってなお新しいキャラクター“Button Eyes”に扮して我々の前に現れた。あの独特の瞳の代わりにボタンを縫いつけた包帯を頭部に巻く、不気味な老人の姿で。人生をシアターと見なして最終章を演じ切った彼は、デヴィッド・ジョーンズとして亡くなり、デヴィッド・ボウイとして 不死を得たのだと思う。