ロンドンの大英博物館で、日本国外では最大級のマンガ展が開幕した。この意欲的なエキシビションが実現した裏側には、ひとりのキュレーターの惜しみないマンガ愛がある

BY MASANOBU MATSUMOTO, PHOTOGRAPHS BY KIKUKO USUYAMA

 彼女の本来の専門分野は、日本の陶磁器と考古学である。2006年から東京大学で客員教授として教鞭をとり、日本に3年ほど滞在。そこでマンガにハマったという。「はじめは日本語の勉強も兼ねていましたが、星野先生のマンガのように考古学や民俗学の視点が織り込まれた作品に出会ったのが、夢中になった大きなきっかけ。海外には、マンガで古代イギリスの文明を学ぶという考えはありませんから。これまでにもさまざまなマンガ家の先生とお会いしてきましたが、それぞれ研究者のように博学で、鋭い観察眼をもっている。会うたびに感銘を受けます」

画像: 展示のため岸本斉史の『NARUTO-ナルト-』/集英社 の原画を受け取る。 「原画は後世に残すべきマンガ文化の財産。展覧会ではその保存方法を紹介するコーナーも設けました」 PHOTOGRAPH BY HARUKA SAITO

展示のため岸本斉史の『NARUTO-ナルト-』/集英社 の原画を受け取る。
「原画は後世に残すべきマンガ文化の財産。展覧会ではその保存方法を紹介するコーナーも設けました」
PHOTOGRAPH BY HARUKA SAITO

 彼女は日本の読者と同じく、作者を“先生”と呼ぶ。好きなマンガ家を尋ねると“先生”の名をきりなく挙げた。マンガ観を変えた作品は? と聞くと、初めに出てきたのが萩尾望都の「柳の木」だった。これは死に別れた母と子の物語。ほぼセリフなしに絵だけでストーリーが紡がれる。言葉にならないこと、もしくは言葉では書けないことを伝えるマンガの力を実感した作品だという。

画像: 萩尾望都の「柳の木」(『山へ行く』/小学館 に収録)。「セリフがないことで、人物の心情がより伝わってくる作品」 © MOTO HAGIO / SHOGAKUKAN INC.

萩尾望都の「柳の木」(『山へ行く』/小学館 に収録)。「セリフがないことで、人物の心情がより伝わってくる作品」
© MOTO HAGIO / SHOGAKUKAN INC.

 こうした“マンガの可能性”こそ、彼女が本展で伝えたいことだ。「言葉だと定義になってしまう。マンガはそれを避けながら、恋愛やスポーツ、ときに戦争や震災などの惨事も描き、読者自身で感じ、考えることを促します。世の中の出来事について理解を深めるツールにもなる。そのマンガの可能性を多くの人に知ってほしい」。また、こう加える。「私自身、疲れたとき、落ち込んだとき、いつもマンガを読みます。簡単に日常から脱出できて、元気になれる。好きな一冊があるだけで人生はぐっと豊かになるんです」。

この展覧会を見たすべての人に、好きなマンガと出会ってほしいと話すルマニエール。それは、キュレーターであると同時に生粋のマンガファンとしての彼女からのメッセージだ。

画像: 『Manga』展のキービジュアルには、野田サトルによる『ゴールデンカムイ』/集英社 のヒロイン、アシリパのイラストを採用。本展のために野田が描き下ろした © SATORU NODA / SHUEISHA

『Manga』展のキービジュアルには、野田サトルによる『ゴールデンカムイ』/集英社 のヒロイン、アシリパのイラストを採用。本展のために野田が描き下ろした
© SATORU NODA / SHUEISHA

『The Citi exhibition Manga マンガ』
会期:2019年5月23日(木)~8月26日(月)
会場:大英博物館 Room 30
住所:Great Russell Street, London, WC1B 3DG
開館時間:10:00〜17:30(金曜日は、20:30まで)
※ 最終入場は、閉館時間の80分前まで
料金:一般 19.50ポンド、16歳以下無料
電話:+44 (0)20 7323 8299
公式サイト

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