BY SARAH NICOLE PRICKETT AND JODY ROSEN, TRANSLATED BY MIHO NAGANO
サラ・ジェシカ・パーカーの声質は図書館の中でひっそり話すのにぴったりだ。そして、それは、ロング・アイランドにあるアマガンセット自由図書館の中にいる私たちにとってはちょうど都合がよかった。この図書館はパーカーが指定してきた場所だ。彼女は昔から図書館が大好きだったし、ここは彼女の海沿いの家からも近いからだ。1997年に俳優のマシュー・ブロデリックと彼女が結婚して以来、ふたりが所有するビーチハウスのことだ。そろそろ夏も終わりの頃だった。彼女の肌は夏の間、うっかり陽にあたっているうちに焼けてしまったという感じの色で、白いコットンドレスにヒールの高いエスパドリーユを合わせていた。彼女は眼鏡とBlackBerryと、冷房がきついときのためにセーターを1枚と、350ページある原稿を持ってきていた。
その原稿は、彼女自身について書かれたものだろうと想像してもおかしくない。現在51歳のパーカーが女優になってからすでに40年以上たつ。回想録の1冊や2冊出版しても当然といえるキャリアの長さだ。『セックス・ アンド・ザ・シティ』がテレビで最初に放映されてから、今年で約20年。このドラマによって、彼女はマンハッタンの空に燦然と輝くスターになり、彼女が演じたキャリー・ブラッドショーという役は、自立した女性の生き 方の代名詞になった。キャリーもパーカー自身も、その個性やスタイルで、常に大衆の憧れの的であり続けてきた。もしパーカーが自分のクロゼットの中身を紹介する本を作り、その本の装丁を彼女のいちばん好きな緑がかった青色で仕上げれば、ベストセラー間違いなしだろう。
だが、パーカーは、自分の名前を本の表紙に印刷するより、自分のイニシャルを本のカバーの裏に印刷したいと語る。そして、それを来年実現させる という。ヴァージニア・ウルフとその夫レナード・ウルフが1917年に設立した出版社ホガースが、SJPという部門を立ち上げ、そこでパーカーは編集ディレクターを務めるのだ。書き手を発掘して、1年間に3〜4冊の新しい小説を編集し、出版するのを手助けするのが彼女の役目だ。
ホガースのトップであるモリー・スターンは、3年前にランチの場でパーカーに出会い、この春、夕食の席で彼女に編集ディレクターを引き受けてくれないかと頼んだ。パーカーはすぐさま承諾した。
「私、本を読むのが大好き。演技をするのが大好きなのも、まったく同じ理由からなの」と彼女は言う。「私にとっては、自分の話より、ほかの人の話のほうがずっと面白いから」。
パーカーの父は詩人でありジャーナリストだった。そして彼女は、作家や編集者の仕事、さらに文学エージェントの仕事内容すらも「ものすごく尊敬して愛してやまない」のだという。ホガースのために彼女がやろうとしていることは、むしろ、パーカーの母で、保育園の先生を引退したバーバラ・フォーストへの讃歌に近いだろう。フォーストは筋金入りの本の虫だ。もしパーカーがHBO(アメリカのケーブルテレビ放送局)のセットのメイクアップ用の椅子に座って何かを読みふけっているとすれば、それはフォーストが子どもたちを学校に車で送るときに、小説本を必ず自分の膝の上に乗せていたからだ。パーカーが図書館の司書たちとともに働くことにワクワクしているとすれば――ホガースは全米図書館協会と組んで、ホガースの書籍に限らず、もっと多くの本をより多くの人々に普及しようとしているところだ――それは、母のフォーストが、幼かったサラ・ジェシカの通学鞄にいつも必ず図書館から借りた本を入れていたからだ。