BY MARI SHIMIZU
歌舞伎観劇への第一歩をサポートする企画公演として、国立劇場が「歌舞伎鑑賞教室」を毎年開催しているのをご存知だろうか。一般的な歌舞伎公演に比べてトータルの上演時間が短くチケット代もリーズナブル。何よりの特徴は演目の上演前に「解説 歌舞伎のみかた」が歌舞伎俳優によって行われることだ。
7月の公演でメインの解説を担当しているのは、女方を中心に活躍している若手歌舞伎俳優の坂東新悟さんである。「解説をさせていただくのは三度目になりますが、その時に上演される演目を楽しむために必要なことに焦点を絞るように心がけています」

坂東新悟(BANDO SHINGO)
歌舞伎俳優。1990年12月5日生まれ。坂東彌十郎の長男。1995年7月歌舞伎座 『景清』 の敦盛嫡子保童丸で初代坂東新悟を名のり初舞台。2012年12月京都南座『佐々木高綱』の高綱娘薄衣ほかで名題昇進。進境著しい若手女方として古典作品から新作歌舞伎まで幅広く演じる他、立役にも積極的に取り組んでいる。1999年に国立劇場特別賞、2013年に国立劇場奨励賞受賞
PHOTOGRAPH BY SHINSUKE SATO
今回の演目は、まず『菅原伝授手習鑑―車引―(すがわらでんじゅてならいかがみ―くるまびき―)』。タイトルからもわかるように、これは『菅原伝授手習鑑』という長い物語のなかの『車引』という場面のことだ。「隈取をした登場人物による〝荒事〟という歌舞伎独特の演技が、いかにも“歌舞伎らしい”一幕です。松王丸、梅王丸、桜丸という三兄弟が登場するのですが、その隈取はキャラクターにより三者三様。さらに三人とは色の違う、青い隈取をした人物も現れます。その意味の違いなどをしっかりとお伝えしたいと思います」

演目のエッセンスをわかりやすく解説
© 2019 NATIONAL THEATRE, TOKYO
豊かな色彩美のなかで、何とも仰々しい出で立ちの登場人物たちが繰り広げる力強い演技は、多くの人が歌舞伎に求めるイメージなのではないだろうか。
「そういう意味で馴染みやすい一方、長い物語からの抜粋なので、ストーリーばかりを追ってしまうと『結局、なんだったんだろう?』となってしまいます。理屈にはあまりこだわらず、シーンのカッコよさに惹かれてアクション映画を観るような感覚でご覧いただければと思います。役者の演技そのものを楽しむというのは、歌舞伎の大きな魅力のひとつなのですから」
もうひとつの演目『棒しばり』は愉快な舞踊劇だ。日ごろの悪さの戒めに両手を縛られた酒好きの家来ふたりが、あるじの留守に酒を盗み飲もうと奮闘する姿を面白おかしく見せる。「これは言葉もわかりやすいですし、無心でご覧いただけば面白く楽しんでいただけると思います。ふたつの演目をご覧いただくことで歌舞伎という演劇の幅の広さを実感していただけるのではないでしょうか」