BY MARI SHIMIZU
「そして何より、昔から伝えられている小栗判官の“ニン”だからです」。ニンとは役の人物と俳優のもつ個性がぴったりであることを意味する。古くから日本人に愛されてきた小栗判官は、高貴な出自で見目麗しく、知勇に長けた人物として描かれいる。
歌舞伎界きっての“イケメン”として知られる隼人さんがニンで魅了するオグリと、活力漲る演技力で圧倒する猿之助さんのオグリ。それは共演者と奏でるハーモニーにも影響し、いくつもの場面で異なる味わいを見せている。
「スーパー歌舞伎のキーワードは“3S” ストーリー、スピード、スペクタクルの頭文字です。ただし初演当時、つまり28年前の現代人の共感を呼ぶ物語としてつくられていますから、今見るとギャップがあるのは否めません」
そこで猿之助さんは原作者の許可を得て横内謙介さんに脚本を依頼。大きな特徴はオグリを中心とする群像劇となったことだ。
「今は多様性の時代。絶対的なヒーローとしてオグリにスポットを当てるのではなく、小栗党の仲間ひとりひとりに個性を持たせました。育った環境や家族、ジェンダーの問題も含め、それぞれに背負っているものがあり、悩みもさまざま。閻魔大王や仏の教えを説く遊行上人でさえ迷っています」
出演者も多彩だ。現代劇で活躍する浅野和之さん、大衆演劇出身の嘉島典俊さん、ミュージカル出身の下村青さんなどスーパー歌舞伎Ⅱ常連組に加え、青春ドラマやヒット曲『夜明けの停車場』で知られる新国劇出身の石橋正次さんらが、それぞれのフィールドで磨いたスキルを発揮している。
「スタッフも歌舞伎だけでなくいろいろなジャンルのエキスパートが支えてくださっています。こうした人との出会いこそが、創造の源です」
歌舞伎の歴史を紐解けば、時代の流行を取り入れ、多ジャンルの有能な人材との共同作業によって新作をつくりだしてきた事例はいくつもある。
「スピーディーな展開のなかに宙乗りや立廻りといったスペクタクルを盛り込んでいますが、現代を投影したストーリーが生み出す演劇的うねりもまたスペクタクルととらえています」
時代の先端をゆくスーパー歌舞伎Ⅱだが、創作において最も大切なのは「古典を咀嚼し、応用する力」だという。
「要は江戸時代から続いて来た歌舞伎にあるものをどう組み合わせるかであって、新たにつくったものなど何一つないと思っています。つまりそれだけのものが歌舞伎の古典にはある、ということです」
いにしえに学ぶことで新たな道は拓ける、ということだ。