BY MARI SHIMIZU
人から人へ、身体表現を伴う芸のスキルが受け継がれ発展してきた歌舞伎では、主演俳優が演出家の役割をも担っている。しかし新作の場合は、演出家を立てることが多い。
そんななかで市川猿之助さんは、製作の過程から舞台の隅々まで気にかけ、演出家としても手腕を発揮している。その代表例が、世界的な人気漫画をもとにつくり上げたスーパー歌舞伎Ⅱ(セカンド)『ワンピース』だ。その大ヒットに続くスーパー歌舞伎Ⅱの最新作が、新橋演舞場で公演中の『新版 オグリ』である。
「哲学者の梅原猛先生の原作を伯父の(市川)猿翁が1991年にスーパー歌舞伎として初演し、その後も上演を重ねた『オグリ』を“新版”としてお届けしています。実は初演当時、伯父は舞台にテレビのモニターを無数に設置してそこに風景を映したいと考えていたのですが、莫大な予算がかかり技術的にも難しいため断念せざるを得ませんでした。ところが『ワンピース』の製作を通して、LEDパネルを用いればそれができることがわかったのです。三代目猿之助を名のっていた当時の伯父の発想に、ようやく時代が追いついた。ならば四代目としてそれを実現させようと思いました」
それはきっかけだ。理由は他にある。「全9作品あるスーパー歌舞伎のなかでもドラマとして面白いからです」。スーパー歌舞伎とは市川猿翁さんが現代人の感性に響く新たな歌舞伎を目指して創始したもので、古典歌舞伎の演技演出と現代性のあるテーマやわかりやすいせりふ、最新の技術とを融合させた舞台。大人気を博し、幅広い層の観客を楽しませてきた。それを受け継ぎさらに発展させるべく猿之助さんが始めたのがスーパー歌舞伎Ⅱだ。
『新版 オグリ』のテーマとなっているのは「歓喜」で、主人公のオグリは何事にも縛られない自由な生き方を求めて6人の仲間たちと小栗党を結成し、心のままに日々を過ごしている人物。照手姫と出会って恋に落ちたオグリは、照手姫の父に殺され地獄に落ちる。閻魔大王の裁きで無残な姿となり現世に戻されたオグリの、再生を描く物語だ。
猿之助さんは杉原邦生さんとの共同演出に加え、オグリと物語のキーパーソンとなる遊行上人の2役を、若手歌舞伎俳優の中村隼人さんとのダブルキャストで演じている。
「同じ作品でも演じ手によって印象は異なります。その違いを見比べるのは古典作品を繰り返し上演し続けている歌舞伎の面白さのひとつです。複数の配役を観ることによって人物や作品そのものの見え方が多彩になり、より深く楽しめます」
隼人さんを抜擢した理由を問うと「『ワンピース』での活躍ぶり」という答えが返ってきた。原作漫画のイメージをみごとに歌舞伎と融合させたサンジ、滝のような水を浴びてダイナミックな立廻りを見せたイナズマ、3階席後方からの宙乗りで回転しながら花道に降り立ったマルコ。隼人さんはその三役でいずれも観客を熱狂させていた。