圧倒的な存在感で50年近くのキャリアを築いてきた俳優、ウィレム・デフォー。67歳にしてなお、チャレンジをいとわない素顔に迫るインタビューを全3回でお届けする第2弾

BY SUSAN DOMINUS, PHOTOGRAPHS BY COLLIER SCHORR, STYLED BY JAY MASSACRET, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

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 ウィレム・デフォーはウィスコンシン州のアップルトンで、ウィリアム・デフォーとして生まれた。地元のコミュニティ劇場に夢中になった彼は、人を笑わすためなら何でもする子どもだった。8人きょうだいの下から2番目だったが、ティーンエイジャーの兄や姉で常にごったがえしている家の中でも、彼は存在感を発揮していた。母は看護師、父は外科医で(ふたりともすでに死去している)、共働きの両親の目は、子どもたちの家の内外での挙動にはほとんど届かなかった。「大家族の一員として暮らすには、自分の居場所は自分で確保しなければならない。そんなことは、精神科医でなくてもわかるよね」と彼は言う。「だから、僕はみんなを楽しませる役割を選んだ」。既成概念にとらわれない外向的な性格の彼は、コミュニケーションの授業でポルノ映画を製作したという誤った嫌疑をかけられて、高校を中退したと語る。それにもかかわらず、ウィスコンシン大学に短期間通い、その後「シアターX」という名の実験的な劇団に入団した(その頃、当時ビリーという名で知られていた彼は、大学時代の友人のひとりから呼ばれていたウィレムという名前に改名している)。

 21歳になったデフォーはマンハッタンのダウンタウンに移り住んだ。1970年代当時、この地域は安い家賃と空き家だったロフトがアーティストたちに人気で、創造的な遊び場と化していた。ここで彼はエリザベス・ルコンプトの劇に出合い、彼女の作品に憧れるようになる。ルコンプトは、多ジャンルで活躍するパフォーマンス・アーティストのスポルディング・グレイの出演作品の監督として知られるパイオニア的な存在だった。デフォーはルコンプトとグレイと協業し、ふたりが劇団を立ち上げるのを手伝い、それが1980年に「ウースター・グループ」と呼ばれる集団になった。だが、デフォーがこのふたりの世界に入り込んでいくうち、大きな混乱が生じた。デフォーとルコンプトが恋仲になったからだ。そのことで、グレイとルコンプトは破局し、その後、デフォーと彼女は26年にもわたる長期の恋愛関係を築くことになった(デフォーとルコンプトの間にはジャックという名のひとり息子がいる。彼は今40歳だ)。デフォーとルコンプトとグレイの3人は、ルコンプトが所有していたロフトの同じ屋根の下で暮らすことになった。グレイが住む部屋とふたりの部屋の間に壁を取りつけ、出入り口も別々にし、3人のうちの誰も引っ越さずにすむようにした。才能がぶつかり合い、緊張と創造性が交差する集団のウースター・グループは、瞬く間にニューヨークで最も影響力のある劇団のひとつとなった。ダンスやパフォーマンス・アートが台頭していく時代の中で、彼らはダウンタウン文化の中心的存在だった。彼らの作品はあるひとつの方向性に貫かれていたわけではないが、無秩序ではなく、高度に様式化され、周到にリハーサルを重ねたうえで発表されたプロジェクトだった。パフォーマンスは厳密な振り付けをもとに構成され、そこにビデオ映像や、複雑に絡み合った物語の筋書きが組み込まれていた。

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 デフォーは強力な自意識とコラボレーションの精神の両方を必要とする作品に自然に傾倒していった。だが、ウースター・グループの創設者のひとりで、現在も同劇団員である俳優のケイト・ヴァルクは、デフォーは音楽バンドの中心人物がもつようなエネルギーを放っていたと回想する。それは観衆を魅了し、テレビ映えもするパフォーマンスだった。「彼は劇団のカリスマとして大事な役割を担っていた」と彼女は言う。「彼はいたずら好きな衝動を常に内面に宿していて、劇場の空間に漂う本能みたいなものを体現していた」。現在65歳のヴァルクと78歳のルコンプトはともに、デフォーが観客から見られることに貪欲(どんよく)だったのを覚えている。「彼は必要とされたい欲求がものすごく強かった」とルコンプトは言う。「そして彼は人から求められると、全力でそれに応える。彼は演じずにはいられないタイプ」と彼女は語る。

 ウースター・グループは実験的映画も製作した。そのスクリーンの中で、デフォーの骨張った顔が美しさと不気味さの両方を交互に表現すると、彼の将来の活躍の場は映画界だろうということが、誰の目にも明確になった(ヴァルクは「ひとつの顔に、ありとあらゆる表情が現れるのを見られるんだから、誰が西部劇映画なんて観る必要がある?」と問いかける)。彼は闇のある役を演じることで知られるようになっていく。たとえば、1985年のウィリアム・フリードキン監督の作品『L.A.大捜査線/狼たちの街』での非情な殺し屋役がそうだ。また、E・エリアス・マーヒッジ*監督作品の『シャドウ・オブ・ヴァンパイア』(2000年)の主人公で、意外なほど悲哀に満ちた内面をもつ狂気じみた男の役もそうだ。この役でデフォーは2001年に、自身にとって二度目のアカデミー賞候補に選ばれた。彼のキャリア全体ではこれまでアカデミー賞に四度ノミネートされている。だが、長年の間、彼はふたつの両極端な役柄を行ったり来たりしてきた。『ワイルド・アット・ハート』(1990年)の冷酷なならず者か、『プラトーン』(1986年)のエリアス軍曹*や、マーティン・スコセッシ監督の『最後の誘惑』(1988年)のイエス・キリストのような、ほぼ聖人に近い役がそうだ。「彼がイエスを演じているのを観たとき、『うわ、イエスだ』と思った」とルコンプトは言う。「『彼は映画館の大きなスクリーンに映し出されても、ちゃんと様(さま)になるんだ』と気づいた」と語る。

*カタカナの人名表記に関しては、編集部の判断により日本で広く使われている表記を使用しています。

 肉体を自在に使って表現するウースター・グループのパフォーマンスで培ったデフォーの表現主義が、彼の映画キャリアの大部分に活かされている。マーベル作品の映画『スパイダーマン』(2002年)のグリーン・ゴブリン役の演技を見ても、その片鱗がうかがえる。彼は『スパイダーマン』シリーズのうち4作品に出演しているが、2002年のシリーズ初作での彼のドラマティックな演技が、その後に続くシリーズの成功を決定づけたと評価されている。だが、彼の最も印象的な演技の中には、過小評価されてきたものもある。2017年製作のインディペンデント映画『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』がそうだ。この作品では、これまでさんざん悔いの多い人生を送ってきた男が、微力ながらも周囲の人々を助けつつ、まっとうに生きようとする姿を熱演している。この映画には、映画出演経験のない地元フロリダの住民たちが多く登場し、監督のショーン・ベイカーは最後のシーンをiPhoneを使って撮影した。自身のキャリアにおいて、現時点では、提示された役を自分の本能に従って選べるという贅沢を手に入れた、とデフォーは語る。「駆け出しの頃は、どの映画を選んでも、将来が台なしになると感じていた。今はもっとリスクを取ることができる」

HAIR BY ADLENA DIGNAM AT BRYANT ARTISTS USING ORIBE, GROOMING BY AYA IWAKAMI, SET DESIGN BY ROBERT SUMRELL, PRODUCTION BY HEN’S TOOTH, DIGITAL TECH BY JARROD TURNER, PHOTO ASSISTANTS: ARIEL SADOK, DYLAN GARCIA, TERRY GIFFORD, SET ASSISTANT: ERIN TURNER, TAILOR: EUGENIO SOLANILLOS. STYLIST’S ASSISTANT: VERITY AZARIO

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