地位や実績のあるレジェンドが、豊かな経験や過去の失敗からの学びを若い世代へ伝えていくことで実りある社会が育まれる──各界で第一線を歩む女性たちの珠玉の対話集第2回は、世界で注目を浴びるシェフが登場

INTERVIEWS BY MICHAEL SNYDER, PHOTOGRAPH BY NURIA LAGARDE, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

画像: (左から)イタカテ・デル・マーのシェフ、モニカ・ロペス・サンティアゴ(28歳)と、コントラマーのシェフ、ガブリエラ・カマラ(47歳)。メキシコシティのセントロ・ヒストリコ地区にあるイタカテ・デル・マーで、2023年2月27日に撮影。

(左から)イタカテ・デル・マーのシェフ、モニカ・ロペス・サンティアゴ(28歳)と、コントラマーのシェフ、ガブリエラ・カマラ(47歳)。メキシコシティのセントロ・ヒストリコ地区にあるイタカテ・デル・マーで、2023年2月27日に撮影。

ガブリエラ・カマラ(シェフ)

 私がモニカに会ったのは、レストラン、カラコル・デ・マーを仕切る料理長アルバロ・ヴァスケスを支える副料理長として、2021年に彼女が抜擢されたときだった(カラコル・デ・マーはカマラが所有するコントラマー・グループの店のひとつ。グループ内にはイタカテ・デル・マーもあり、サンティアゴが料理長を務めている)。彼女の料理を味わうたびに感動する。料理に知性があふれていて、食べてみると心地よい感情で満たされていく。

 25年前にコントラマーを開店したとき、フード業界は現在とはまったく違っていた。当時は分子ガストロノミー(註:科学的、物理的な技術を駆使した調理方法や学問を指す)の全盛期で、厨房にいたのは男性シェフばかり。彼らは技術をたたき込まれて育成され、マッチョ文化を体現していた。それならばと、私は自己流でやることにした。もしチームを結成し、自分のプロジェクトに参加したいとスタッフに思ってもらえるように啓蒙するのがメンターの役割ならば――まっとうな方法で人材を採用し、従業員に正当な待遇を提供するなど――私はこれまで何年もメンター活動をしてきたことになる。それは食という領域を超えた財産であり、生き方そのものだ。

 幸運にも、私自身も多くのメンターに育てられた。両親、祖父母、おばたち――そしてアリス・ウォータースやダイアナ・ケネディら業界の先人である女性たちからも学んだ。尊敬できる先輩がいて、自分を目標としてくれる後輩がいる。そんな関係があると、自身をほんの少しだけ彼らに分け与えることができ、彼らからも何かを少しもらうことができるのが素晴らしい。いや違う――彼らが多くを与えてくれるから、自分も彼らに惜しみなく与えられるのだ。

 モニカと一緒に次のプロジェクトを立ち上げるのを楽しみにしているし、彼女なりの主張や個性を料理でどう形にするのかを見てみたい。私はほかの人と一緒に働いていたときに、彼らが私の個性を指摘してくれたことで初めて、自分にも個性や主張というものがあるのだと気づいた。今のところモニカはまだ私を喜ばそうと一生懸命だけれど、私は常に彼女のレシピや、彼女なりのやり方について尋ねている。そうすることで信頼関係が生まれるから。食の世界では、試食することは、すなわち対話すること。私たち料理人は、味という言語を通して会話するのだ。

モニカ・ロペス・サンティアゴ(シェフ)

 私はオアハカ州の州都オアハカから車で90分ほどの距離にあるサンフランシスコ・テオパンという街で育った。両親は今でもそこに住んでいるけど、私は12歳でメキシコシティに引っ越した。母の手料理がいつも恋しくて、高校生になる頃には自分は料理人になりたいのだと気づいた。調理を学び始めるとレストランについて知るようになり、そんな中にコントラマーもあった。ガブリエラが女性だったことで、とりわけこの店に興味をもった

 私の故郷では、特別なイベントやお祝いのたびにいつもモーレ(ソースを使った料理)やバルバコア(バーベキュー)が出てくる。これらの料理を作るため多くの女性たちが集まる――長い間、女性たちはこの役割を担ってきた。でもプロの料理人の厨房は、マチズモ文化を煮つめたような場所で、男性たちは、私たち女性の重要性や能力を認めようとはしなかった

 カラコルとイタカテというレストランは、私にとって自由に息ができる場所だ。私たちはモーレやアドボ(漬け汁やマリネを使った料理)やタマレ(トウモロコシの粉の生地の中に肉や野菜を入れて蒸した料理)を作ってきた――これらはコントラマーのメニューには決して載っていない。私たちの店の名前である「イタカテ」という単語は、食事をしたあと、お土産として自宅に持って帰るおいしい何かを意味するのだが、まさにその名の通りだ。私たちの店では、それは自分たちが育った家庭から、レストランの厨房に持ち寄った味のことを指している。理想の厨房とは、お互い誰もが教え合い、学び合うコミュニティなのだ。

INTERVIEWS HAVE BEEN EDITED AND CONDENSED

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