発見、感動、思索……知的好奇心を刺激する、映画好きな大人のための今月の新作を厳選!

BY REIKO KUBO

イランの巨匠が描く、答えの出ない選択を突きつけるカンヌ最高賞受賞作――『シンプル・アクシデント/偶然』

画像1: ©LesFilmsPelleas

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 車の修理を依頼しに現れた男は、義足を引きずる音を立てていた。その音は、主人公ワヒドの脳裏に忌まわしい記憶を蘇らせた。“義足”と呼ばれて恐れられた看守に政治犯として痛めつけられ、すべてを奪われたワヒドは復讐に駆られ、砂漠に拉致するが、生き埋めにすべく穴を掘って男を投げ込んだ段階で、本当にこの男はあの“義足”なのか?という疑念が頭をもたげてくる。獄中で終始目隠しされていたワヒドは、看守の顔を見たことがなかったからだ。彼は同じ経験を持つ元囚人たちを訪ねると、みな復讐に燃えるのだが、彼らの聴覚、嗅覚、触覚の記憶を駆使しても真偽は不明のまま。

 監督は、イラン政府による度重なる弾圧に屈せず、創作を続けてきたジャファル・パナヒ。映画制作を禁止されれば『これは映画ではない』を監督し、渡航も禁止されながら『人生タクシー』『ある女優の不在』など、カンヌやベルリンの国際映画祭で受賞を重ねてきた。そんな巨匠が二度にわたる自身の逮捕、投獄経験をもとに描いたのが本作『シンプル・アクシデント/偶然』。

画像2: ©LesFilmsPelleas

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 独裁政権下の不条理とトラウマ、ウェディングドレス姿の花嫁を含む被害者一団の迷走。ヒッチコックの『ハリーの災難』を思わせるブラック・ユーモアを孕みながら、ラストの音によって見る者に衝撃を突きつけるカンヌ国際映画祭パルムドール受賞作であり、アカデミー賞脚本賞と国際長編映画賞のノミネート作品だ。そのハリウッドでの授賞式に出席後、家族を案じて戦火のテへランに帰国したパナヒ監督の所在は明かされていないという。監督の無事を祈りながら、彼の渾身作を多くの観客のもとに届けたい。

画像: 5.8 Fri 公開『シンプル・アクシデント/偶然』本予告 www.youtube.com

5.8 Fri 公開『シンプル・アクシデント/偶然』本予告

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『シンプル・アクシデント/偶然』
5月8日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamura ル・シネマ 渋谷宮下ほか全国公開
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綾瀬はるか・大悟主演、羊をめぐる出来事が家族に問いを投げかける『箱の中の羊』

画像1: ©2026フジテレビジョン・ギャガ・東宝・AOI Pro.

©2026フジテレビジョン・ギャガ・東宝・AOI Pro.

 今年のカンヌ国際映画祭のコンペティション部門に正式出品される是枝裕和監督最新作は、息子を亡くした夫婦が、7歳だった我が子そっくりの姿をしたヒューマノイドを迎える物語だ。建築士の母・音々(おとね)を演じるのは綾瀬はるか、工務店を営む父・健介を演じるのは千鳥の大悟。息子・翔の“帰還”を喜ぶ音々に対し、違和感を拭えず、自らを「パパ」ではなく「おじさん」と呼ばせる健介。やがて翔の死について、音々と健介それぞれが抱えた自責の念が浮かび上がるが……。

 最愛の息子の死と向き合う夫婦がたどり着くのは、タイトルも引用されているサン=テグジュペリの「星の王子さま」がテーマとする境地。さらに是枝監督は生成AIをディストピアの元凶と捉えることなく、コピーされた両親の記憶や想いを受け継いで成長する翔を描く。そして自己停止を選ぶ映画『A.I.』のデイビッドとも、フランケンシュタイン博士に捨てられた怪物とも異なる、翔が向かう有機的な未来とは?

画像2: ©2026フジテレビジョン・ギャガ・東宝・AOI Pro.

©2026フジテレビジョン・ギャガ・東宝・AOI Pro.

 そんな翔を演じるのは映画初出演の桒木里夢。史上最年少でカンヌ国際映画祭主演男優賞を受賞した柳楽優弥をはじめ、名子役を誕生させてきた是枝監督が、AI少年のミステリアスな瞳で観客を魅了する。また今回も、翔に木の性質を教える木工職人役の田中泯をはじめ、清野菜名、寛一郎、中島歩、余貴美子ら豪華な共演陣が集う。

画像: カンヌ国際映画祭コンペ部門出品!『箱の中の羊』予告編90秒 youtu.be

カンヌ国際映画祭コンペ部門出品!『箱の中の羊』予告編90秒

youtu.be

『箱の中の羊』
5月29日(金)全国ロードショー
公式サイトはこちら

愛と条件の狭間で揺れる女性の選択――『マテリアリスト 結婚の条件』

画像1: 2025 © Adore Rights LLC. All Rights Reserved

2025 © Adore Rights LLC. All Rights Reserved

 長編デビュー作『パスト ライブス/再会』でアカデミー作品賞等にノミネートされ、一躍注目を浴びた監督セリーヌ・ソン。12歳の時に韓国からカナダに移住した自らの体験を下敷きに、ニューヨークで夫と暮らすヒロインがソウル時代の初恋の相手と再会するドラマを描いた『パスト ライブス/再会』に続き、新作でも2人の男の間で揺れるヒロインの物語を紡ぐ。主人公は、結婚相談所の敏腕マッチメーカーとして多忙な日々と送るルーシー。愛を資産価値で計り、心に刺さる言葉を駆使して多くのカップルを誕生させてきた。そんなある日、とんでもない資産家で長身かつダンディなハリーから情熱的なアプローチを受ける。ところが、いまだに売れない役者を続けている元カレ、ジョンにも再会、彼への未練も再燃する。

画像2: 2025 © Adore Rights LLC. All Rights Reserved

2025 © Adore Rights LLC. All Rights Reserved

 年収10万ドル以上、身長180センチ以上。希望の人生パートナーについて、まるで家や車を買うかのように値踏みするクライアントたちとルーシーのやりとりはとてもリアルだ。それもそのはずで、監督セリーヌ・ソンは劇作家時代、生活費のためにニューヨークでマッチメーカーとして働いていたという。しかし彼女は、結婚の矛盾を突く皮肉やシニカルなトーンを抑え、『エディントンへようこそ』のペドロ・パスカルをハリーに、『キャプテン・アメリカ』のクリス・エヴァンスをジョンに据え、対照的で魅力的な男性ふたりの間にルーシーを立たせる。挫折を隠し、キャリアウーマンとして颯爽とニューヨークを闊歩するダコタ・ジョンソンが、自分ごととなるとマテリアリストになりきれない当たり役を久々に引き当てている。

画像: 5月29日(金)公開映画『マテリアリスト 結婚の条件』予告 www.youtube.com

5月29日(金)公開映画『マテリアリスト 結婚の条件』予告

www.youtube.com

『マテリアリスト 結婚の条件』
5月29日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
公式サイトはこちら

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