BY ELIZABETH PATON, TRANSLATED BY CHIHARU ITAGAKI

グレース ウェールズ ボナー
本質に迫ったグレース ウェールズ ボナー
グレース・ウェールズ・ボナーはロンドンのメンズファッション界のライジングスターだ。2016年にLVMHプライズを受賞した彼女は、アフリカ系男性にとってのアイデンティティとブラック・カルチャーに関して鋭い問題提起をするコレクションを発表し、業界に一石を投じる存在になっている。
今回、彼女が提案したのは、モノトーンのスーツやショーツ&ジャケットのセットアップ。すべて細長いテーラードシルエットで、端正な肩のラインやフレアを描くパンツが特徴的だ。コレクションについて問われ、「今回はミニマリズムについて深く考えてみました」と語った26歳のデザイナー。「高級感を出すため、カッティングとフィット感にはとことんこだわりたかった。テーラリングを前面に押し出したかったのです」

グレース ウェールズ ボナー

グレース ウェールズ ボナー
PHOTOGRAPHS BY TOM JAMIESON FOR THE NEW YORK TIMES
今回のコレクションで考慮すべきは、目に見える特徴だけではない。これまでのグレース ウェールズ ボナーは、歴史的、文化的な物語をさりげなく織り込むことで、コレクションに芳醇で難解な文脈を与えていた。しかし今回、彼女は直接的にインスピレーション源に触れた。観客には、ゲイのアフリカン・アメリカ人の活動家で文筆家のジェイムズ・ボールドウィンにまつわるエッセイが配られ、同時に配布された『ホモエロティック・フォトグラフィ・オブ・カール・ヴァン・ヴェクテン』の写真は、ショーでモデルの着たウェアにもプリントされていた。
今までと異なる表現方法、「センシュアルというよりはセクシャルな」表現をしたかったのだとデザイナーは語る。「その方が、より厳密な表現になると思うから」。ヴィジョンを明確にし、それをショーでしっかりと現実化する。だからグレース ウェールズ ボナーはフレッシュなパワーに満ちているのだ。