BY MERRELL HAMBLETON, PHOTOGRAPHS BY DICKO CHAN
28歳になるデイヴィスは、サウスカロライナで生まれ、子どもの頃に90年代のポップ・カルチャーの影響を受けて育った。たとえばR&Bのミュージックビデオ、ジャンポール・ゴルチエが衣装を手がけたSF映画『フィフス・エレメント』、そして母親が持っていた『Black Hair』や『Hype Hair』といった雑誌。高校生のときに服作りを独学で学び、「デザイナーになるという考えに手をつけ始めた」という。「アート・インスティテュート・オブ・シアトル」で短期間学んだのち、デイヴィスは解体したデニムでつくったファースト・コレクションを発表した。「あれがノー セッソの起源ね」
デイヴィスは2014年にLAに引っ越し、事業を拡大するためのスペースと資源を手に入れた。「ファッション関係の店が集まった地区(ファッション・ディストリクト)で、かなりの時間を過ごした」と彼女は言う。「そこには生地とかジッパーとか、服をつくるのに必要なものすべてが山ほど揃っているの」
友人や協力者たちからなるコミュニティとともに、デイヴィスはたいていの服を手作業でつくっている。「今はリサイクル・デニムを使ったパッチワークをたくさんつくっているところ。昨年の秋はたくさんのセーターをリサイクルして、ドレスをつくったわ」。新しい素材はファッション・ディストリクトで見つけ、残った分も溜めておいてリサイクルする。「あらゆるものを使い切っている。パンツも、トップスもセーターもすべてね。なんでも自分でやるのが好きだから、忍耐力も必要になる。あと、素敵な音楽のプレイリストも」
素材をため込んでリサイクルする作業だけでなく、手作業の制作には時間がかかる。「私の服はつくるのに何時間もかかるし、たいていの服は一点ものね」とデイヴィス。彼女は2016年に独学で刺繍の技術を習得し、その刺繍をあしらったウェアはブランドのシグニチャーとなっている。2017年の春、「黒人女性の髪、彼女が身なりを整えるときの美しさにインスパイアされた」刺繍をジャケットに施したときは、完成までに6カ月を要した。
デイヴィスの制作プロセスは、ハイ・ファッションのペースからは外れたものだろう。そしてある意味では、それが重要なポイントでもある。「私にとっては、ファッションというよりはアートを制作している感じなの。ファッション業界のサイクルなんてまったく気にしてない」。実際、ノー セッソは最近になって、従来の「春夏シーズン」「秋冬シーズン」というカテゴリーをやめてしまった。2018年最初のノー セッソのコレクションは、簡単に「NS 2018-1」と名付けられた。「作品を発表したい、と自分が感じたときに発表したいだけ」だと彼女は言う。
デイヴィスにとって、ノー セッソは抵抗を表す形のひとつだ。彼女はそれを「平和な抗議活動」と呼ぶ。「喜びをもたらす」ことによって、ファッション業界をひっくり返そうとする試みなのだ。リック・オウエンスやトム・ブラウン、フェイ&エリカのトゥーグッド姉妹をはじめとする多くのデザイナーがジェンダーレスファッションを探求してきた。だが彼らのつくる服は色みを抑えたミニマルなデザインで、映画『マトリックス』のディストピア的な世界の制服のようになりがちだった。それとは対照的に、ピエールの考える“ジェンダーにとらわれない世界”の急進的ビジョンは楽観的な気分に満ちている。
今年5月に発表された最新コレクションでデイヴィスがイメージしたのは、「みんなが2022年に着たいと思う服」。「先シーズン、私は『スター・トレック』をたくさん観たんだけど、SFの世界にはあまり黒人が出てこないでしょ。だったら私がやってみようと思ったんです。もっと多くのアイデンティティを示して、人々が未来とつながるきっかけを提供するようなことをね」
ノー セッソの服は、NYのブティック「プラネットX」や公式サイトで購入可能