ロエベと自身の名を冠したブランド、「JW ANDERSON」の両方でクリエイティブ ディレクターを務める、 デザイナーのジョナサン・アンダーソン。彼はヨーロッパ・ファッションの老舗を、生き生きとしたリアルなものに変身させた立役者だ

BY NANCY HASS, PHOTOGRAPHS BY KRISTIN-LEE MOOLMAN, STYLED BY SUZANNE KOLLER, TRANSLATED BY HARU HODAKA

 アンダーソンがロエベのトップに任命されたとき、雑多なスタイルで市場の隙間を埋めるような存在でしかなかったデザイナーが、果たして瀕死の状態にある老舗ブランドを再生させられるのかと疑問に思った人々もいた(当時のロエベは社内政治の闘争や、経済的な現実に直面していた)。当時、アンダーソンは、自分の会社以外には、プラダで1年ほど仕入れの仕事をした程度しか経験がなかった。だが、尽きることなく湧き出てくる想像力に加え、アンダーソンはファッション界をリードするトップグループの人材の中でも、ほんの少数しか持ち合わせていない才能を持っている。それはビジネスを理解する頭脳だ。ほかの反抗的なデザイナーたち――アレキサンダー・マックイーンが特に有名だが――が企業の経営陣とやり合ってきたのに対し、彼はビジネスとカルチャーのバランスをとることを楽しんでいるように見える。彼の代になってから、ロエベの売り上げは飛躍的に伸びた。

「今の時代、どんなデザイナーもビジネスの現実から完全に目をそらすことはできない。10年前ならそれも可能だったかもしれないが、もうそんな時代じゃない」と彼は言う。「いかに生き残るかってことだよ。自分が言いたいことを全部主張するには、ある程度長い間、存在していなければならないからね」。彼のそんな現実的な一面から生まれたのが、最新プロジェクトだ。ロエベの111店の直営店の多くを、彼が呼ぶところの「カ サ ロエベ」という名前にして、彼のデザインだけではなく、ほかのアーティストや職人たちの作品を展示する場にするというのだ。彼のお気に入りのフラワーデザイナーすらも、その中に加わる予定だ。

ニューヨーク店はこの秋ソーホーにオープンするが、ロンドンのメイフェアのボンドストリートに4月にオープンした3階建てのフラッグシップショップでは、彼の最新プロジェクトはもう形になっている。そこでウェアやアクセサリーとともに空間を飾るのは、陶芸家の桑田卓郎が手がけた突起がたくさんついたカラフルな器や、吹きガラスでつくった真っ赤な雫のようなアンセア・ハミルトン作の『火山のテーブル』(2014年)、それに竹工芸家の松本破風が編んだ籠などだ。この店にはアンダーソンが自らのスピリチュアル・ホームと称するケトルズ・ヤードからの影響があちこちに見て取れる。

ケトルズ・ヤードは、ケンブリッジにあるギャラリーで、20世紀に活躍したアートコレクターのジム・イーデと妻のヘレンが所有していた4軒分のコテージを合わせた住まいだった場所だ(夫妻は1966年にこの住居を大学に寄贈した)。生活の場と販売スペースが同居するというハイブリッドな環境のモデルになった空間だ。ケトルズ・ヤードには、彫刻家のバーバラ・ヘップワースとヘンリー・ムーア、それに画家のヘレン・フランケンサーラーの作品が飾られ、その傍らにはイーデのオリジナルの家具が置かれ、コンテンポラリーやモダン主義のアーティストたちの展覧会が代わるがわる開催された。

 アンダーソンが手がける店舗には彼のテイストとビジョンが反映されているが、彼自身はそうではない。今の時代、クリエイティブ ディレクターが自らの美意識を体現するのがごく一般的だ。たとえば、グッチのアレッサンドロ・ミケーレの想像力に満ちた装いを考えてみてほしい。だが、アンダーソンがいつも着ているのはルーズなジーンズにセーターかボタンダウンのシャツで、砂色がかったブロンドの髪は寝グセであちこちを向いている。彼は見栄っ張りの孔雀ではないのだ。「ちゃんとした格好をしようとは思うんだけど、僕にはすごく難しいんだ」と彼は語る。

彼は自宅には自分の作品を一切置きたくないという。自分のブランドとロエベ、どちらにおいても、彼はほかのデザイナーよりも恐らくずっと多くの仕事を自分のチームに任せている。チームのメンバーたちは、彼から常に湧き出てくるアイデアを実際に形にするという権限を与えられている。たとえば、16世紀のごく小さな肖像画からヒントを得たアイデアが、ウールコートのピューリタン風の襟になったり、白いシルクブラウスの大仰な襟飾りになったりして、ランウェイを闊歩する服に変身する。彼はスケッチが上手だが(彼の母方の祖父はテキスタイル会社のマネジャーで、デルフト焼きの陶器を蒐集していた。祖父はアンダーソンと彼の弟が子どもの頃、キッチンテーブルに座らせて、紅茶のカップや器を何度も繰り返しスケッチさせて、物体の大きさや寸法を教えた)、彼は自分のことを、デザイナーというよりもキュレーターだと思っている。アンダーソンのスタイリストを長年務めるベンジャミン・ブルーノとの仕事関係は、パートナーに近いものだと彼は言う。アンダーソンは、ウィメンズウェアを手がけるデザイナーの中でただひとり、メンズウェアからそのキャリアをスタートさせ、ウィメンズに適応していった例かもしれない。「僕は男性に魅力を感じる男だから」と彼は言う。「そこにエネルギーを注ぐのは自然なことなんだ」

画像: ラップケープ(参考商品)、タートルニット ¥30,000、パンツ ¥85,000、 ベルト¥45,000、靴(価格未定) エドストローム オフィス (JW Anderson) TEL. 03(6427)5901 イヤリング Karry Gallery karryberreby.com 眼鏡 Pour Vos Beaux Yeux pourvosbeauxyeux.com

ラップケープ(参考商品)、タートルニット ¥30,000、パンツ ¥85,000、
ベルト¥45,000、靴(価格未定)
エドストローム オフィス
(JW Anderson)
TEL. 03(6427)5901
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眼鏡
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 長く実直な伝統に裏打ちされたロエベの革の物語を、ワクワクするような、かつ長く愛されるものに書き換えていく一方で、JW ANDERSONではエッジの効いた奇想天外なデザインを何シーズンも展開し続ける。それ自体、「ごく稀な天才にしかできないこと」だとアマンダ・ハーレックは語る。彼女はカール・ラガーフェルドの旧友でもあり彼のミューズでもあった。彼女は、ラガーフェルドが今年亡くなる前に彼にアンダーソンを紹介し、ふたりは友情を育んでいた。「カールにあったような知性と、圧倒的な貪欲さが彼にはある」と彼女は言う。

MODEL: ASSA BARADJI AT COVER PARIS MODEL AGENCY. HAIR BY CYNDIA HARVEY AT ART PARTNER. MAKEUP BY JANEEN WITHERSPOON AT BRYANT ARTISTS USING CHANEL BEAUTY. SET DESIGN BY ANDREW TOMLINSON AT STREETERS. CASTING BY HELENA BALLADINO FOR DM CASTING AGENCY.

PRODUCTION: BRACHFELD. MANICURE: ALEX FALBA AT ARTLIST PARIS. DIGITAL TECH: PHILIPPE BILLEMONT AT IMAGIN. SET ASSISTANTS: DAVID KONIX AND SAMANTHA LANTERI. STYLIST’S ASSISTANTS: CHARLOTTE THOMMERET AND LAËTITIA LEPORCQ

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