BY AIMEE FARRELL, PHOTOGRAPHS BY MEL YATES, TRANSLATED BY JUNKO HIGASHINO
「こんなに座り心地がいい椅子は本当に初めてだよ」。アイルランド出身のファッションデザイナー、ジョナサン・アンダーソンが声を上げた。ここはイギリス北部のヨークシャー地方にある「ヘップワース・ウェイクフィールド・ギャラリー」だ。アンダーソンは、デンマークのモダンデザインの椅子に気持ちよさそうに身を沈めている。その横では、ターナー賞(英国の現代美術賞)にノミネートされたアーティスト、アンセア・ハミルトンが「永遠に座っていられそうね」とささやきながら、ゆったりと椅子にもたれている。
ふたりは、ハミルトンがキュレーションを担当した、イギリスの初期モダニズムの作品が並ぶ展覧会場にいる。これらの作品は、イギリス東部ケンブリッジにある「ケトルズ・ヤード・ハウス」の所蔵品から彼女が選んだものだ。「ケトルズ・ヤード・ハウス」とは、影響力のあるコレクターだった故ジム・エド氏の元住居を公開したアートギャラリーである(現在は改築のため閉鎖中。なお今回の展覧会ではコンテンポラリーアート作品も展示される)。ハミルトンが手がけたこの展覧会場は、そこはかとない静寂に包み込まれている。一方、その隣室はまるで異質の空間だ。そこでは、アンダーソンがキュレーターを務める『DisobedientBodies(反抗する身体)』展の綿密な最終仕上げが行われているのだ。
“アートとファッション”がテーマのこの展覧会のために、アンダーソンは敬愛するアーティストやデザイナーの100点以上の作品を収集した。会場では、イギリス人彫刻家バーバラ・ヘップワース、クリスチャン・ディオール、ヘンリー・ムーア、リック・オウエンス、アルベルト・ジャコメッティ、ヘルムート・ラングなどの壮大な作品群が、熟慮された、示唆に富んだ配置構成で展示されている。たとえばイッセイ・ミヤケの3Dスチームストレッチは、イサム・ノグチが1950年代にデザインした一連の和紙製ランプとともに並んでいる。イッセイ・ミヤケの画期的な「プリーツプリーズ」シリーズは、イサム・ノグチの作品に着想を得ているからだ。
アンダーソンは「どんなフィールドであれ、いちばん重要なのはコラボレーションだと思う」と語る。「誰でもほかの人から何かを吸収できる。そして異分野のもの同士が出会ったときに、驚くような予想外の何かが生まれるんだ。この展覧会では、ファッションとアートのどちらかに偏ることなく、僕が抱く双方への情熱を伝えたいね」