ロエベと自身の名を冠したブランド、「JW ANDERSON」の両方でクリエイティブ ディレクターを務める、 デザイナーのジョナサン・アンダーソン。彼はヨーロッパ・ファッションの老舗を、生き生きとしたリアルなものに変身させた立役者だ

BY NANCY HASS, PHOTOGRAPHS BY KRISTIN-LEE MOOLMAN, STYLED BY SUZANNE KOLLER, TRANSLATED BY HARU HODAKA

 ロエベのデザインスタジオをマドリードからパリ6区に移し、(ロンドンに定期的に通うには便利で、かつロエベと、彼自身のブランドとのクリエイティブな距離を、ほどよく保てる位置にある)アンダーソンは“彼の”ロエベを打ち立てることに専念した。それは、オートクチュールと同じレベルの職人技に裏打ちされつつも、鮮度の高い手作りのエネルギーに満ちた洋服やアクセサリーのコレクションを作るということだった。双方を両立させるのは、葛藤と軋轢ばかりのプロセスだが、それがあってこそ、ブランドに対する彼のビジョンを決定づけ、推し進めることができるのだ。

彼がロエベのために下した決断は常識からはずれていたように見えるかもしれない。目立つロゴは使わず、作品に独特の比喩的な意味を込めることを恐れない(たとえば、マルチストライプのアンゴラセーターは、まるで素人が編んだように見えるし、人気のカーフスキンのハンドバッグには、シグネチャーであるコットンのトップステッチが効いていて、はっきりした主張を打ち出している)。しかし彼は、今という時代の言葉で語りかけようとし、地に足のついた、スローで不完全な、人類学的なものに対する、漠然として説明のつかない希求心に訴えかけようとする。だからこそ、彼のコンセプトは人々の共感を呼ぶのだ。

画像: ニット ¥1,519,000 ロエベ ジャパン カスタマーサービス (ロエベ) TEL. 03(6215)6116 眼鏡 Pour Vos Beaux Yeux pourvosbeauxyeux.com

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眼鏡
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 この秋のコレクションでは、ウールセーターの表面を大小さまざまな輝く真珠が、まるでフジツボが生えているように覆い、それにオーバーサイズのワイドジーンズを合わせた。伝統的なチェックをパッチワークした膝上丈のコートは、袖がベルスリーブになっていて、ナチュラルな色のカーフスキンのスタンドカラーが効いている。柔らかなウールのタートルネックドレスは、ウエスト部分から白いコットンオーガンジーのペザントスカートに変態を遂げ、そこにはホタテ貝の装飾がついた予備のバンドが縫いつけられている。バッグはアンダーソンのベストセラーが繰り返し登場する。幾何学パターンの「パズル」と、小粋なネクタイを結んだようなデザインの「ゲート」だ。だが、カワウソの形をしたニットのミニバッグのような、あえて子どもっぽくデザインした一点もののアイテムもあり、それは実際子どものおもちゃと間違えられそうだ。また、修道女のベールか蝙蝠(こうもり)の耳のようにも見える帽子や、タンポポ色の鳥の羽毛で飾られたヘッドバンドもある。

 アンダーソンがここまで過激な理由は、彼のビジョンが、着るモノや手で持つモノだけに限定されていないという点にある。ヴィクトリア&アルバート博物館の古臭くてごちゃごちゃした、洗練されていない過去の栄光である陶器コレクションが、なぜ好奇心でいっぱいの彼の心を投影したジオラマなのかも、それで説明がつく。「僕はファッションが大好きだ」と彼は言う。「でも、自分がファッションに支配されることはない」。それは正式な表明であり、約束でもある。つまり彼は、統一感のあるコレクションを生み出そうとしたり、時代の気分に沿おうと意識したりはしないのだ。人間の身体の線をことさら強調することも、彼の眼中にない。彼のミューズはモデルでもなければ俳優でもない。そのかわり、彼の主なインスピレーションの源は、洋服の上に作業用のスモッグを羽織って働いていた人たちで、20世紀初頭の職人技の担い手たちだ。JW ANDERSONとロエベは、伝統的なクラフトをハイファッションの世界に取り戻そうとする、彼のマッドサイエンティスト的な試みの実験場なのだ。

それは確かに予言的でもあり、挑発的な思想だ。クラフトはファッションの世界では常にトリッキーな位置にあったからだ。今までも時折、デザイナーが真摯にシンプルさを探求しようとしたことはあった。たとえば、ナタリー・チャニンが、2000年代の初めにアメリカで、サスティナブルな「アラバマ・チャニン」というブランドを発表し、アラバマ州フローレンスに住む地元の女性たちが手作りしたコットンのTシャツとデニムに、緻密なビーズ飾りと刺しゅうを施した例がぱっと頭に浮かぶ。だが、そうした試みは多くの場合、偽善的な感じがしたり、家庭的すぎたりしてうまくいかないのが普通だ。

 2016年にアンダーソンは、ガラス、皮革、紙などあらゆる素材を使って作品を作る世界中の職人たちを対象に、ロエベ ファンデーション クラフト プライズというコンクールを設立して、正式にクラフトの世界とつながりを作った。それはブランドと、デザイナーとしての彼の美意識の礎となった。彼の作る服は、クラフトがファッションを引き立てるために存在するのではなく、ファッションがクラフトを支えるために存在すべきだと示唆する点で、これまでの価値観を覆す力を秘めている。彼の手にかかると、服を着る人は、人間の手にはどんなことが可能なのかを、世に示すための媒体になるのだ。「ある場所では“クラフト”は“独占”を意味し、エリート意識を表現するのに使われている」と彼は言う。「でも僕にとっては、クラフトとは、すべてをはぎ取って根本に戻ること。ありのままの姿に忠実になることなんだ」

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