永遠と、現在のこの一瞬。伝統とファッション。相反し、矛盾するものを調和させる美の魔法が、ハイジュエリーには凝縮されている。芸術としてのハイジュエリーを、文学に着想を得た斬新なアプローチで解釈したエキシビションを紹介

BY OGOTO WATANABE

 時をめぐる6つめの部屋は「正確さ」がテーマだ。この部屋では、まるで今つぼみから開いたばかりのような風情の花が瑞々しい光を放つ。このメゾンならではのミステリーセットの技法を用いて、留め具を全く見せずにルビーやサファイアが連綿と連なり、しなやかな花弁をかたどる。この技法は1930年代に編み出され、メゾンが特許を申請したものだ。壁には、世界初出という当時の職人の手稿が展示されている。自然に美を見出し、その美を表すために、数学や幾何学、科学的な見地からの研究を緻密に重ねた跡がそこに見られる。

画像: カール ミノディエール(1935) <イエローゴールド、ルビー、プラチナ、ラッカー、ダイヤモンド> ヴァン クリーフ&アーペル コレクション 女性の様々な持ち物が、それぞれに適した形で美しく収まる。閉じれば実にスッキリとしたエレガントなケースに。「かたちを変える」「美と実用の共存」など、メゾンのDNAとなるものがここにも体現されている COURTESY OF VAN CLEEF & ARPELS

カール ミノディエール(1935)
<イエローゴールド、ルビー、プラチナ、ラッカー、ダイヤモンド>
ヴァン クリーフ&アーペル コレクション
女性の様々な持ち物が、それぞれに適した形で美しく収まる。閉じれば実にスッキリとしたエレガントなケースに。「かたちを変える」「美と実用の共存」など、メゾンのDNAとなるものがここにも体現されている
COURTESY OF VAN CLEEF & ARPELS

「軽さ」「速さ」「視覚化」「正確さ」に続くのは「多様性」だ。インターネットや携帯電話が日常に浸透する直前の1984年に、これらを次の時代をつくる“価値”として選び抜くカルヴィーノの透徹した視点。しかし、この部屋で最も目を引くのは1935年につくられた「ミノディエール」だ。口紅、時計、薬、その他、女性のこまごました持ち物すべてが美しく収まるよう、技を駆使して作り上げた、画期的な構造を誇るケースである。様々なものがそれぞれに適した場所にある様子は、美と実用性が調和し、エレガンスが漂う。

画像: ジップ ネックレス(1951) <プラチナ、イエローゴールド、サファイヤ、エメラルド、ルビー、ダイヤモンド> ヴァン クリーフ&アーペル コレクション スムースな開閉という機能と、デザインの優美さ。その両立に歳月を費やし、遂に1951年に完成。こちらの作品も「かたちを変えるジュエリー」であり、ジップを閉じるとブレスレットになる COURTESY OF VAN CLEEF & ARPELS

ジップ ネックレス(1951)
<プラチナ、イエローゴールド、サファイヤ、エメラルド、ルビー、ダイヤモンド>
ヴァン クリーフ&アーペル コレクション
スムースな開閉という機能と、デザインの優美さ。その両立に歳月を費やし、遂に1951年に完成。こちらの作品も「かたちを変えるジュエリー」であり、ジップを閉じるとブレスレットになる
COURTESY OF VAN CLEEF & ARPELS

 そして、“時”をめぐる解釈として「ダンス」「クチュール」「建築」の部屋が続く。このメゾンのジュエリーが、さまざまな分野の文化と交差することで、豊かに育まれてきたことがよくわかる。「クチュール」の部屋で燦然と輝くジップ ネックレスこそ「メゾンのDNAをすべて体現するもの」と、キュレーターのアルバ・カペリエーリは言う。19世紀末頃、アメリカの労働者のウェア用に開発されたジップ。これをジュエリーに転用するアイデアを、創業者夫妻の娘であり、メゾンのアーティスティック ディレクターを務めたルネ・ピュイサンに提案したのは、かのウィンザー侯爵夫人だ。20年以上も研究を重ね、1950年に遂に最初の作品が完成。以来、ジップ ネックレスは今日までメゾンを代表するアイコンであり続ける。

「このジップ ネックレスには、3つのミラクルを見ることができます。クラフツマンシップ、デザイン、そして美と実用性の調和におけるミラクルの具現化です」とカペリエーリは語る。

画像: スリー バード クリップ(1954) <プラチナ、イエローゴールド、サファイヤ、ルビー、ダイヤモンド> ヴァン クリーフ&アーペル コレクション かつてイランのソラヤー王妃が所蔵していたクリップ。親鳥、ひな鳥たちのつぶらな瞳が愛らしい COURTESY OF VAN CLEEF & ARPELS

スリー バード クリップ(1954)
<プラチナ、イエローゴールド、サファイヤ、ルビー、ダイヤモンド>
ヴァン クリーフ&アーペル コレクション
かつてイランのソラヤー王妃が所蔵していたクリップ。親鳥、ひな鳥たちのつぶらな瞳が愛らしい
COURTESY OF VAN CLEEF & ARPELS

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