永遠と、現在のこの一瞬。伝統とファッション。相反し、矛盾するものを調和させる美の魔法が、ハイジュエリーには凝縮されている。芸術としてのハイジュエリーを、文学に着想を得た斬新なアプローチで解釈したエキシビションを紹介

BY OGOTO WATANABE

“時”の概念をさまざまな切り口でとらえた10の部屋に続くのは、“愛”をテーマに掲げる空間だ。ここに燦然と輝くティアラは、モナコ公妃の故グレース・ケリーが娘のキャロライン王女の結婚式で着用したもの。部屋の中央では、初孫の誕生を喜ぶエリザベス・テイラーに、パートナーが贈ったチョーカーが黄金の光を放つ。「愛とは、世界で最もパワフルなエネルギーだと思います。ひとつひとつのジュエリーは愛のメッセージがこめられた、愛の贈り物なのです」とはカペリエーリの言葉だ。

“愛”の部屋には、枝の上で翼を寄せ合う鳥たちや、親鳥を見上げるひな鳥を表現した、微笑ましいジュエリーも展示されている。世代を超えて伝えられ、大切に慈しまれ、育まれていく愛。そこにジュエリーの文化としての起点があることを感じる。

画像: 自然(動物)の部屋。天井はフラスコ画、壁には荘厳な絵画が飾られた宮殿の間が、光と色でモダンかつ軽やかな空気をまとう。装飾を担当したジョアンナ・グラウンダーは米国出身、現在はイタリアをベースに活躍中の建築家兼デザイナー COURTESY OF VAN CLEEF & ARPELS

自然(動物)の部屋。天井はフラスコ画、壁には荘厳な絵画が飾られた宮殿の間が、光と色でモダンかつ軽やかな空気をまとう。装飾を担当したジョアンナ・グラウンダーは米国出身、現在はイタリアをベースに活躍中の建築家兼デザイナー
COURTESY OF VAN CLEEF & ARPELS

 そして、“自然”をテーマに、本展は大団円を迎える。貴石、鉱石、有機物などさまざまな素材で表現された多様な植物、花、動物が、レアーレ宮殿のなかにパラダイスを出現させる。植物の部屋は淡いグリーンのライトが空間を彩り、花の部屋ではピンクのライトが空間をほのかに染める。本展の演出を手掛けた建築家兼デザイナーのジョアンナ・グラウンダーは言う。「花の部屋では、散り敷かれた花びらを連想するよう、足元にもピンクの光を用いています。ここを訪れる人の心の琴線に触れられるような雰囲気を作りだしたいと思ったのです。わくわくするような”体験“を味わってもらえるよう、各部屋の空気を彩りました」

 グラウンダーは現代的な舞台美術に着想を得て、壮麗な宮殿を舞台に、透明なガラスや光、色彩を組み合わせて、モダンで軽やかな世界を出現させた。「主役はもちろんジュエリーです」と彼女は言う。存在していないかのような透き通ったガラスのケース。ひとつひとつのジュエリーの美しさが存分に際立つよう、光の屈折や反射を緻密に計算し、光源の位置から内装の設えまでが丁寧に設計されている。「建築家でもあるので、背景を完全にコントロールすることは当然のことだと考えます。でも、大切なのは、人の心に訴えるもの、アトモスフィア(場の空気)を作ることだと思います」

画像: 本展のキュレーターを務めたアルバ・カペリエーリ。ミラノ工科大学のジュエリーデサイン正教授、ヴィチェンツァジュエリー博物館長。多くの国際的なジュエリー展を手がける。著書も多数 COURTESY OF VAN CLEEF & ARPELS

本展のキュレーターを務めたアルバ・カペリエーリ。ミラノ工科大学のジュエリーデサイン正教授、ヴィチェンツァジュエリー博物館長。多くの国際的なジュエリー展を手がける。著書も多数
COURTESY OF VAN CLEEF & ARPELS

 “時、自然、愛”を本展のメインテーマに選んだ理由を、キュレーターのカペリエーリに尋ねた。「この三つは私たちの人生や日々の生活に最も大切な価値だと考えます」

 一方で、宝飾芸術研究の第一人者である彼女は、こうも言う。ジュエリーとは常に、永遠と一瞬、伝統とファッション、愛と投資、自然とフィクションなどの相反する価値を宿す。それゆえ、この三つの価値をジュエリーのなかに見出すのは容易なことではないのだ、と。しかし、永遠の美と一瞬の美という時のパラドックスを共存させるメゾンの能力。宝石の価値やクラフツマンシップという観点のみならず、さまざまな対立することがらを調和へと向ける努力をし、自然の崇高な美を具現化する芸術性の高さ。そして、創業から“愛“を大切な価値として貫いてきたメゾンの精神。「20世紀から百十数年に亘るメゾンの作品群について学ぶうちに、”時“”自然“”愛“の三つの価値が、ヴァン クリーフ&アーペルに確固として培われていることに気づいたのです」と、カペリエーリは語る。

 その道筋が、古今の様々な文学を考察し、対立しあう多様な事柄を照応させながら、次の時代に継承すべき価値を導き出したカルヴィーノの思索の軌跡と重なり合うことに、合点が行く。

画像: ヴァン クリーフ&アーペル プレジデント兼CEOのニコラ・ボス。2000年にクリエイティブディレクター兼マーケティングディレクター就任以降メゾンを牽引し続け、2013年からはプレジデント兼CEOとしてメゾンを率いる COURTESY OF VAN CLEEF & ARPELS

ヴァン クリーフ&アーペル プレジデント兼CEOのニコラ・ボス。2000年にクリエイティブディレクター兼マーケティングディレクター就任以降メゾンを牽引し続け、2013年からはプレジデント兼CEOとしてメゾンを率いる
COURTESY OF VAN CLEEF & ARPELS

 カルヴィーノの提唱する価値のなかで、メゾンが最も大切だと考えるものは何か、とヴァン クリーフ&アーペルのプレジデント兼CEOを務めるニコラ・ボスに尋ねた。「ジュエラーとして、ひとつめの価値の『軽さ』はやはり重視するものです。重く、硬い貴金属から、いかにしなやかで流麗な軽やかさを表現し得るか」。その上で、と言葉を続け、「次の百年、さらにその先の時代を見据え、メゾンとして最も大切だと考えるものは『一貫性』です」

 カルヴィーノの遺著にある6つめの価値は「一貫性」。カルヴィーノは六回目の講義のための渡米前に亡くなり、草稿を遺すのみだが、五つの価値を実現し統合するのに不可欠なのがこの「一貫性」ではないだろうか。時代の波にもぶれず揺らがず、自らの核となるものを守り貫く、堅固な志と姿勢――。

 相反する事物を美のもとに融合させるクラフツマンシップ、時代の荒波のなかでも希望を灯し、愛と調和に向かおうとする人間の精神性。複数の時空を内包しつつ、唯一無二の輝きをたたえるハイジュエリーは、さまざまな美しい文脈を深く読み取ることのできる芸術だ。

画像: ピヴォワンヌ クリップ (1937) <プラチナ、イエローゴールド、ルビー、ダイヤモンド> ヴァン クリーフ&アーペル コレクション ミステリーセットの技法を駆使してつくられた芍薬の花弁がしなやかに重なりあう様子がみごとだ COURTESY OF VAN CLEEF & ARPELS

ピヴォワンヌ クリップ(1937)
<プラチナ、イエローゴールド、ルビー、ダイヤモンド>
ヴァン クリーフ&アーペル コレクション
ミステリーセットの技法を駆使してつくられた芍薬の花弁がしなやかに重なりあう様子がみごとだ
COURTESY OF VAN CLEEF & ARPELS

 石畳の道も、立ち並ぶ建物も、ベージュから茶のワントーンに染まるミラノの街。時を経て訪れても、店の名前は変われど街の様子は記憶のままであることに驚く。この街自体も、「一貫性」という価値を堅固に守ち続けているように感じる。夕暮れには金色の灯に温かく彩られ、冬はひときわ風情がある。ぜひミラノを訪れ、かつての王の宮殿にて、ハイジュエリーに宿る物語を読み解く愉しさを味わっていただきたい。

『ヴァン クリーフ&アーペル:時、自然、愛』
会期:〜2019年2月23日(日)
会場:ミラノ レアーレ宮殿(Palazzo Reale)
住所: Milano, Palazzo Reale, Piazza Duomo 12
入場料:無料
公式サイト

 

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