ウォッチジャーナリスト高木教雄が、最新作からマニアックなトリビアまで、腕時計にまつわるトピックを深く熱く語る。第13回では、一大トレンドを形成するブロンズケースの魅力に迫る。新素材開発競争と逆行するオールドマテリアルが、時計界の新境地をもたらす

BY NORIO TAKAGI

 スイス各地にある時計博物館に所蔵される18~19世紀に作られた懐中時計の多くは、ケースに金を用いている。当時、時計は非常に貴重であり、ゆえに外装にも高貴な金が使われた…のでは、ない。一番の理由は、錆びないからだ。20世紀初頭に誕生したステンレススティールが、時計ケースに作用されているのも、同じく錆びない金属だから。1980年代以降は、チタンやセラミック、カーボンなど様々な素材が使われるようになってゆく。そのどれもが、まず錆びないことを大前提とし、軽さと傷が付かない硬さを得ることを目的としてきた。

 ところが、そうした時計界における新素材開発とは真逆のトレンドが、ここ数年来巻き起こっている。ブロンズケースだ。日本語では、青銅。紀元前3500年ころ、シュメール文明で使われ始めた銅と錫の合金であり、最初は黄金色を呈するが、やがて銅の塩基性酸化物の皮膜が生じて黒ずみ、さらに皮膜の厚みが増すと青緑色の緑青となる。つまり、錆びるのだ。しかも重く、柔らかくて傷付きやすい。これまで時計ケースの素材が追求してきた性質とは、すべてが真逆。にもかかわらず、各社からブロンズケースのモデルが数多く登場し、一大トレンドを形成するに至ったのは、錆と傷による経年変化を楽しむという、時計の新たな価値を提示したからだ。レザーやデニムが、使い込むほどに味わいが増すのと同じ。ブロンズケースは、使われる環境で変化の仕方が異なり、他にはない世界でただひとつだけの存在に育ってくれる。

 こうしたブロンズの魅力を初めて明確に打ち出したのは、パネライだった。2011年に発表した、初のブロンゾ(イタリア語でブロンズとの意)ケースモデル「ルミノール サブマーシブル1950 3デイズ ブロンゾ-47MM」は、限定1,000本が瞬く間に完売。そしてオーナーらは、色変わりし、緑青が浮いて育ったマイ・ブロンゾをSNSにアップし、自慢しあった。そう、経年変化するブロンズケースは、映えるのだ。その後、2013年と17年に登場したブロンゾの限定モデルも完売し、2020年ついにレギュラーモデルとして「サブマーシブル ブロンゾ-47MM」が発表された。

画像: 初代ブロンゾ「ルミノール サブマーシブル1950 3デイズ ブロンゾ-47MM」(個人オーナー所有) ところどころに浮いた緑青が、味わい深い

初代ブロンゾ「ルミノール サブマーシブル1950 3デイズ ブロンゾ-47MM」(個人オーナー所有)
ところどころに浮いた緑青が、味わい深い

 これらパネライのブロンゾが用いるのは、銅92%+錫8%のCuSn8(銅=Cuと8%の錫=Snの合金であることを示す工業規格)。銅の含有量が多いため、指で触れただけで、その箇所だけが色変わりするほど経年変化は速く進む。この成功を受け、2015年から各社から登場しはじめたブロンズケースでは、錫に代わってアルミニウムを銅と合わせたアルミニウム青銅が、よく使われている。錫青銅よりも経年変化が穏やかで、店頭で取り扱いやすいのが多用される理由だ。

画像: パネライ「サブマーシブル ブロンゾ-47MM PAM00968」¥1,810,000 <ケース径47mm、ブロンズ、自動巻き、カーフストラップ> ブロンゾ初のレギュラーモデルは、ベゼルのインサートにダイヤルと丁寧に色合わせしたセラミックを初採用。年間生産数はごく限られるが、待てば必ず買える PHOTOGRAPHS:COURTESY OF OFFICINE PANERAI オフィチーネ パネライ フリーダイヤル:0120-18-7110 公式サイト

パネライ「サブマーシブル ブロンゾ-47MM PAM00968」¥1,810,000
<ケース径47mm、ブロンズ、自動巻き、カーフストラップ>
ブロンゾ初のレギュラーモデルは、ベゼルのインサートにダイヤルと丁寧に色合わせしたセラミックを初採用。年間生産数はごく限られるが、待てば必ず買える
PHOTOGRAPHS:COURTESY OF OFFICINE PANERAI

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