BY NORIO TAKAGI
フランスの時計ブランド、ベル&ロスは、二種類のブロンズをモデルに合わせてうまく使い分けている。唯一無二のスクエア型ダイバーズウォッチ「BR 03-92 ダイバー ブロンズ」にはCuSn8を用い、新品の段階では素材本来の赤みが強い黄金色で重厚感を増し、海水にさらされるダイバーズだから経年変化は加速されブロンズならではの魅力をより堪能できる。一方、丸型のクロノグラフ「BR V2-94 ベリータンカー ブロンズ」では、銅91%+アルミニウム(Al)7%+シリコン(Si)2%のCuAl7Si2を使用。イエローゴールドにも似た色味が醸し出すヴィンテージ感が、緩やかな経年変化で徐々に高まる趣向とした。
上質なスイス製機械式時計を良心的な価格で提供するオリスは、2016年からブロンズを外装素材に用い、他社とは異なる魅力を引き出している。その1つが「ダイバーズ 65」。ブロンズを逆回転防止ベゼルのリングやブレスレットの中リンクに用い、ステンレススティールとのバイカラーに仕立てたのだ。錆びないステンレススティールとの対比で、ブロンズの変化がより際立つ。一方で「ビッグクラウン ブロンズポインターデイト」では、ケースとリューズ、さらにはダイヤルまでブロンズ製とした。ダイヤルのブロンズには特殊な化学処理を施して変化を止め、ひとつひとつ異なる表情を与えている。1938年製モデルをルーツとした外観は、オールブロンズによってよりレトロな印象となった。
タグ・ホイヤーの「オータヴィア キャリバー5 COSC」も、ブロンズケースによってヴィンテージ感をグッと高めている。さらに分針を0位置に合わせ、経過時間が計れる回転ベゼルのインサートには、セラミックを使用。日常生活ではほぼ傷付くことはなく、買った時の状態を保ち続けるベゼルは、長く使うほどにケースとの対比を高めて、時の移ろいを強く感じさせてくれる。
船具に使われてきたブロンズはダイバーズウォッチと相性が良く、またオールドマテリアルであるがゆえ、ヴィンテージなモデルに似合う。錆びやすく、重くて柔らかい、時代を逆行するプリミティブな合金だからこそ、ブロンズは時計の新たな魅力を引き出す。
高木教雄(NORIO TAKAGI)
ウォッチジャーナリスト。1962年愛知県生まれ。時計を中心に建築やインテリア、テーブルウェアなどライフスタイルプロダクトを取材対象に、各誌で執筆。スイスの新作時計発表会の取材は、1999年から続ける。著書に『「世界一」美しい、キッチンツール』(世界文化社刊)があり、時計師フランソワ・ポール・ジュルヌ著『偏屈のすすめ』(幻冬舎刊)も監修