BY MIKA KITAMURA, PHOTOGRAPHS BY TETSUYA MIURA
埼玉県上尾市。五街道のひとつである中山道沿いの宿場町として、江戸時代には諸大名の参勤交代や、皇族下向の中継地として栄えてきた。酒どころのイメージはないが、じつは荒川水系などの質のよい水脈があるこの地で、その水を使って酒造りをしている酒蔵が「北西酒造」だ。明治27年(1894年)に開業し、今年、創業125年を迎える。
2018年、桜の咲くころ、北西酒造と日本酒応援団、髙島屋のコラボレーションによる酒「AGEO 純米大吟醸 しずく斗瓶取り2018」の斗瓶取り作業の日に、ここを訪れた。“斗瓶取り”とは、布袋に麹を入れてタンクに吊るし、もろみそのものの重みで自然に酒が滴り落ちるのを待つ酒造りの手法だ。時間と手間がかかるが、雑味がなく、華やかでフレッシュな味わいになる。
この日の作業は北西酒造、日本酒応援団、髙島屋のメンバーが総出で参加。布のにおいがつかないよう何度か水にさらした新しいさらしを袋状にし、タンクに渡した棒にひとずつ吊り下げていく。袋が万が一落ちたらタンクの酒すべてがダメになってしまうので、1袋ずつしっかり縛っていくのも相当な手間だ。
米、麹、水を発酵させたものをもろみと呼ぶが、このもろみをさらしの袋に入れれば、10分ほどでタンクに酒が滴り落ちてくる。一斗(18ℓ)瓶をタンクの口の下に置き、栓を開けると、少し濁りのある酒がほとばしった。これが「荒ばしり」と呼ばれる酒となる。タンクから直接お猪口に汲み、全員で試飲する。ほのかにシュワシュワッとした若々しい風味だ。皆、目を見合わせ、顔から笑みがこぼれる。数カ月の酒造りの見事な結晶だ。この日、作業着を着て仕事をする人たちの中に、北西隆一郎はいた。