BY MIKA KITAMURA, PHOTOGRAPHS BY TETSUYA MIURA
北西は33歳、「北西酒造」の5代目だ。慶応大学卒業後、大和証券に勤め、さらにソフトバンクへ。ずっと投資関係の仕事をしてきた。長男としていずれは蔵を継がねば、と意識してきた北西は、ちょうどよい区切りだと30歳で退社し、経営企画部長として父が経営する蔵に入社。社長を継いだのは2017年、32歳のときだった。
酒蔵は1954年に法人化され、酒造りは「北西酒造株式会社」が、販売は別会社が担ってきたが、4代目である父の時代に「株式会社文楽」として統合。5代目として社長を継いだとき、北西はこれを「北西酒造株式会社」に戻した。「酒造りの蔵として、しっかりやっていきたいという気持ちを込めて社名を戻しました。原点回帰したかったんです」。同時に、酒造りにおいても大きく舵を切った。
この酒蔵の代表銘柄である「文楽」は、燗に適した酒として地元で親しまれてきた。「しかし、ここ数年で燗酒の需要が大きく落ち込みました。このままではまずいという危機感がすごくあった。これからは燗酒だけに頼ってはいられない。社長に就任してすぐ、冷やでおいしい酒を造ろうと考えました。燗酒用と冷酒用では、造り方も設備も違う。負担は大きいのですが、2年以内に冷酒向きの新しいブランドを立ち上げます」
目指すは「冷やで飲んでおいしい純米酒」。どんな料理にも合う食中酒はもちろん、イタリアンやフレンチにも合う日本酒もつくると言う。「市場を広げていかなければ、日本酒業界は先細る一方です。例えば、野菜料理にはこれ、肉のグリルにはこれ、というように、料理とのペアリングを具体的に提案できるよう、お酒の種類を増やしていきたいですね」
商品の幅を広げたいと、日本酒を利用したハンドケアシリーズも開発。ハンドクリームやスクラブ、ミスト、パックのシリーズは、リピーターも増え、売れ行きは好調。今後はさらに商品の充実を図る。
そんな北西にとって、日本酒応援団とのパートナーシップは刺激的だったようだ。応援団のコンセプトは、「純米・無濾過・生・原酒で地元産の素材を使うこと」。北西酒造にはなかったタイプの酒造りの概念だと北西は言う。日本酒応援団とともに「AGEO 純米大吟醸 無濾過生原酒」を手がけて3年。今回、髙島屋限定販売の「AGEO 純米大吟醸 しずく斗瓶取り2018」には、「埼玉G」というご当地酵母を初めて使った。香り高く、個性的。地元の酵母を見直すきっかけとなった。
「古原さん(日本酒応援団社長)の、日本酒の価値をアップしていこうという姿勢にもとても共感しました。タッグを組んだ初年はすべてがチャレンジ。産みの苦しみでした。でも、日本酒応援団のおかげでその価値をしっかり消費者に伝えていただき、髙島屋さんともコラボレーションすることができた。売り上げも順調に伸びています」と北西社長。「社長になってよいご縁が広がっています。このご縁を大切に、新しい味を追求していきます」。埼玉の小さな蔵から、未来の味への挑戦が続く。
北西酒造
住所:埼玉県上尾市上町2丁目5番5号
電話:048(771)0011
公式サイト