その天才的ともいえるワインづくりで、“永遠のアンファン・テリブル(恐るべき子ども)”とも評される醸造家、ローラン・ポンソ。独立した彼が語る決意とは?

BY KIMIKO ANZAI, PHOTOGRAPHS BY SHINSUKE SATO

 ローラン・ポンソが当主を務めていた「ドメーヌ・ポンソ」を去り、みずからの名を冠した「ローラン・ポンソ」を立ち上げたのは2017年のこと。このニュースは、当時ワイン界を大きくざわめかせた。

「ドメーヌ・ポンソ」は1872年から続く老舗であり、そのフィネス(繊細さ、洗練)に満ちたワインは世界中に熱狂的なファンをもつ。また、現在ブルゴーニュで栽培されている80%のピノ・ノワールはポンソの畑がルーツであるといわれ、ブルゴーニュワインの歴史の一端を担ってきたつくり手としても知られる。独立にはさまざまな憶測が流れ、家族経営のドメーヌらしく“畑の相続の問題”とも目されているが、その最大の理由をローラン本人はこう語る。

画像: ローラン・ポンソ(LAURENT PONSOT) 「ローラン・ポンソ」当主。「ドメーヌ・ポンソ」当主を38年間務めた後、2017年4月に新ドメーヌを設立。現在、長男のクレメンとともに二人三脚でワインづくりに向き合う。今回の来日では天ぷらとムルソーのマリアージュを楽しんだ

ローラン・ポンソ(LAURENT PONSOT)
「ローラン・ポンソ」当主。「ドメーヌ・ポンソ」当主を38年間務めた後、2017年4月に新ドメーヌを設立。現在、長男のクレメンとともに二人三脚でワインづくりに向き合う。今回の来日では天ぷらとムルソーのマリアージュを楽しんだ

「昔ながらのネゴシアンに立ち戻って、“オートクチュールのワイン”をつくってみたくなったんだ。現代では自社畑のブドウが主流になり、つくり手の個性が際立つようになったけれど、その分、テロワールが十分に生かされていないように感じられる。私は、“買いブドウでもブルゴーニュの村ごとのテロワールを表現できる”ということを証明したいんだ」

“ネゴシアン”とはブドウの仲買人を意味するが、かつてのブルゴーニュはネゴシアンがブドウ栽培農家から樽で果汁を買い、それをブレンドして売るのが主流だった。なかには悪質なネゴシアンもいて、畑を偽ったラベルをボトルに貼って販売されることもあったことから、ブルゴーニュでは“ドメーヌ元詰め”が増えたという流れがある。だが、ローランはあえて昔に立ち戻ることを決意した。「かつては優秀なネゴシアンもいた。200年前につくられていたようなアベラシオン(地域)の味がするワインを、自分でつくってみたい」と考えたのだ。

画像: 自信作のひとつが「クロ サン ドニ グラン クリュ キュヴェ デュ ムリジエ 2016」<750ml>¥110,000 ピノ・ノワール100%、チェリーやバラの香りで口あたりもシルキー。生産総本数545本の“レアもの” ※写真は2015年ヴィンテージのもの

自信作のひとつが「クロ サン ドニ グラン クリュ キュヴェ デュ ムリジエ 2016」<750ml>¥110,000
ピノ・ノワール100%、チェリーやバラの香りで口あたりもシルキー。生産総本数545本の“レアもの”
※写真は2015年ヴィンテージのもの

「ブルゴーニュには3,500人の栽培家がいる。優秀な栽培家も多いから、心強いよ」とほほ笑む。「ドメーヌ・ポンソ」の畑はすべて特級だったが、「ローラン・ポンソ」では特級ではない畑のブドウも使用する。ローランにとっては新しい挑戦でもある。とはいえ、彼が「ドメーヌ・ポンソ」から受け継いだ畑もいくつかあるのだが、これらのブドウも今後は“特別扱い”することなく、同じ村のブドウとブレンドされる可能性もあると語る。

 ローラン自身に関していえば、彼はワイン界において革新的な試みを重ねてきたつくり手でもある。たとえば、「アルデアC」と名づけられたコルク。これは、コルクの木ではなく、人工心臓の素材として使用されるテクノポリマーなど特殊な素材でできている。ゆっくりと熟成が進むワインを、劣化から守ってくれるコルクなのだという。しかも、良質のコルクは1個1.2ユーロするところ、こちらは0.5ユーロ。「経費節減に最適だろう?」と笑う。

画像: テーブルの上のコルクは、ローラン自身が開発した特殊素材の「アルデアC」 (左から) 「ローラン・ポンソ コルトン シャルルマーニュ グラン キュヴェ デュ カリメリ 2016」 <750ml>¥40,000 レモンなど柑橘類の香りが際立つ。フレッシュな酸味と厚みのミネラル。奥行きのある味わいで、限りなくエレガント 「ローラン・ポンソ ジュヴレ シャンベルタン グラン クリュ キュヴェ デュ ソール 2016」 <750ml>¥93,000 スミレやチェリーの香り。タンニンはシルキーで舌の上で溶ける感覚。繊細な酸味とナチュラルな果実味。驚くのは清潔感と色気が共存していること。ブルゴーニュの真骨頂を感じる

テーブルの上のコルクは、ローラン自身が開発した特殊素材の「アルデアC」
(左から)
「ローラン・ポンソ コルトン シャルルマーニュ グラン キュヴェ デュ カリメリ 2016」<750ml>¥40,000
レモンなど柑橘類の香りが際立つ。フレッシュな酸味と厚みのミネラル。奥行きのある味わいで、限りなくエレガント
「ローラン・ポンソ ジュヴレ シャンベルタン グラン クリュ キュヴェ デュ ソール 2016」<750ml>¥93,000
スミレやチェリーの香り。タンニンはシルキーで舌の上で溶ける感覚。繊細な酸味とナチュラルな果実味。驚くのは清潔感と色気が共存していること。ブルゴーニュの真骨頂を感じる

 ほかにも、ボトルを熱劣化から守る温度センサーつきラベルや、ボトルの情報が即座にわかるQRコードなど、最先端のアイディアと技術でワインを守っているローラン。“ワインを守る”ことに全身全霊で取り組むが、それには彼自身の経験が影響している。じつは彼には、かつて「ドメーヌ・ポンソ」の偽ワインがニューヨークのオークションにかけられた際、単身オークション会場に乗り込み、寸前で競売をストップさせたという“武勇伝”があるのだ。

「競売の2日前、友人の弁護士から電話があったんだ。『ドメーヌでは何年から“クロ・サン・ドニ”をつくっている? ニューヨークでの競売に、1947年、49年、61年が出ているんだが』とね。これには心底驚いて、椅子から転げ落ちたよ。なぜって、私が“クロ・サン・ドニ”をつくったのは82年からだからね。すぐに競売会社に電話したところ、競売の担当者は『お客さま、私どもはきちんと商品をチェックしておりますので、偽物ということはありえません』と言う。埒があかないから、私はこう言ったんだ。『あなたは今、誰と話しているかわかりますか? ローラン・ポンソ本人ですよ』(笑)」

 驚いた担当者はワインを競売にかけないことを約束したが、ローランは即座にニューヨーク行きのチケットを手配。オークション会場に到着したのは競売が始まって10分後だった。その結果、偽ワインの販売を未然に防ぐことができたのだった。ローランは「本人が乗り込んだんだから、そりゃあ売れないよね」と笑うが、彼のこの行動は、横行していた偽ワインの流布に一石を投じたのである。

画像: 「ローラン・ポンソ」の本拠地は、ニュイ・サン・ジョルジュの東に位置するジリィ・レ・シトー村。シトー修道院があることで知られる COURTESY OF LAURENT PONSOT

「ローラン・ポンソ」の本拠地は、ニュイ・サン・ジョルジュの東に位置するジリィ・レ・シトー村。シトー修道院があることで知られる

COURTESY OF LAURENT PONSOT
画像: 発酵には最先端の逆円錐型発酵槽を使用。液面が広く、対流もゆったりしているので、果実のうまみがゆっくり抽出されるという COURTESY OF LAURENT PONSOT

発酵には最先端の逆円錐型発酵槽を使用。液面が広く、対流もゆったりしているので、果実のうまみがゆっくり抽出されるという
COURTESY OF LAURENT PONSOT

 最後に、彼にこんな質問をしてみた。「ワインの色気とは、どこから生まれるものだと思いますか?」。偉大なワインには“フィネス”があるが、「ローラン・ポンソ」のワインには、加えて“センシュアリティ”が感じられる。人を一瞬にして魅了し、飲んだ翌日もその余韻にとらわれてしまうほどの魅力の源とは何なのだろう。その問いに、ローランはこう答えてくれた。

「それはテロワールと人間が織りなすものだと、私は思う。繊細な人間がていねいにつくれば、美しいワインが生まれる。私はそれを目指したいんだ。『私自身に色気があるからだよ』と言いたいところだけれどね(笑)」

問い合わせ先
ラック・コーポレーション
TEL. 03(3586)7501
公式サイト

 

This article is a sponsored article by
''.