BY YUKINO HIROSAWA, PHOTOGRAPHS BY TAKASHI EHARA
祖父江 慎さんの職業はブックデザイナー。ディック・ブルーナの絵本シリーズ、さくらももこさんにまつわる多くの著書、夏目漱石の『心』(刊行百年記念版)など、デザインした本やコミックスは数知れず。さらに最近では、スヌーピーミュージアム東京や、「ミッフィー展」や「ピングー展」といった展覧会のアートディレクションまでも手がける。文字の形や大きさ、色などを駆使して既成の概念や常識をふわりと飛び越えるデザインを展開。私たちのハートをキュンとときめかせ、その世界に引き込む奇才、英才、天才! 「本のデザインは助産師さんみたい」だと語る祖父江さんの、ベールに包まれたおやつ事情とは?
「僕ね、小さい頃は、『どうして朝昼も夜もごはんを食べなきゃいけないんだろう?』って疑問に思うくらい、食べることに興味がなくって。でも、おやつは大好きでした。特にアイスクリーム! だって水より冷たいのに氷よりやわらかだし、しかもあま~い♡ 不思議な食べ物ですよね!『アイスクリームのうた』っていう童謡があるんだけど、僕はこの歌が大好き。特に歌詞がすばらしくて、食べていると本当におとぎ話の王子さまよりも幸せになっちゃうんです」
祖父江さんのアイスへの愛は止まらない。「小学生の頃、駄菓子屋さんの店先にあった巨大な冷凍庫のふたを開けて、どれを買うか選んでいる時間が大好きでした。背が低いから、手を伸ばしても届かないでしょ? だから頭ごと突っ込むの。するとね、空気が甘くてひんやり冷たいの! なんて幸せなんだろうって。さらに輪切りパイナップルやメロン型、風船型にホームランバー…… いろんな色や形もすごく楽しくて。“当たり”まで付いてきちゃったらどうしよう♡ って、いつもはずれるのに夢みちゃう。さらに薄くて丈夫なまっ白い紙に包まれた木のスプーンには爽やかな色で文字が描かれ、容器まで美しくてハッピーなの。アイスには夢と幸せがすべて詰まっていたんです。これぞ贅沢の極み! たいていは、お店の人に『早く決めなさい』としかられるんだけど、なんのそのです」
美大生を経て、社会人に。「大人だからたくさん買える! 毎日アイスを食べてもしかられない。憧れが身近になったせいか、気持ちに歯止めがきかなくなっちゃって、20代前半からは毎日2本食べちゃうほどアイスクリームの沼に(笑)。お腹が冷える? アイスは、どこかお酒やタバコみたいな中毒性みたいなものがあるから、消費は激しくなる一方……。このまま快楽に浸かりすぎてはマズいと気づき、アイス中毒から抜け出そうと思いついたのが、チョコレートに切り替える作戦。アイスからチョコアイスに、チョコアイスからチョコレートに徐々に変えていくの。でも、今度はチョコ中毒になっちゃった。僕の人生は、アイスとチョコが交互です」