BY KIMIKO ANZAI
数あるシャンパーニュの中でも根強いファンが多いのが「ボランジェ」だ。ピノ・ノワールを主体とした芳醇な味わいは、特に“シャンパーニュ上級者”に愛され、英国王室御用達でもある。“女王陛下の007”であるジェームス・ボンドが愛する銘柄としても広く知られている。
そのボランジェの究極のスタイルともいえるのが「ボランジェ R.D.」だ。第二次世界大戦下、4代目ジャック・ボランジェの妻としてメゾンを守り抜き、その後大きく発展させたマダム・リリー・ボランジェのアイディアによって誕生したシャンパーニュで、ボトルの中には彼女が貫き通した革新的なヴィジョンとプライドが込められている。
この“スーパープレステージ”というべきシャンパーニュの新ヴィンテージが「ボランジェ R.D. 2007」だ。グレープフルーツ、ブリオッシュ、ハチミツ、ヘーゼルナッツ、クミン…… と、様々な香りが立ち上る。大輪の白い花のブーケを受け取ったような印象だ。味わいは果実味豊かで香ばしく、酸の美しさが際立っている。驚くのは、13年という長い熟成期間でありながら、とてもフレッシュで軽やかな飲み口だということ。繊細さと優雅さを感じさせる。
のちに「ボランジェ R.D.」となるボトルが誕生したのは1967年のこと。マダム・ボランジェはデゴルジュマン(澱抜き)されたばかりの1952年ヴィンテージのワインを極辛口の「エクストラ・ブリュット」として販売するという大胆なアイディアを打ち出した。シャンパーニュの世界において、“オールドヴィンテージ”という概念がまだ一般的ではなかった時代のことだ。加えて、「ドザージュ(加糖)」も極々控えめ。これも当時としては斬新な試みだった。ちなみに「R.D.」とは「Récemment Dégorgé(最近、澱抜きされた)」の意だ。
ジェネラル・マネージャーのシャルル・アルマン・ド・ベルネ氏は言う。
「2007年ヴィンテージには、フレッシュな躍動感と、時間の経過とともに変化する様々なアロマの表情があります。口に含んだ瞬間、フレッシュさとスパイシーなアロマを感じますが、それは、私たちが長い時間をかけて積み上げてきたクラフツマンシップのなせる業ともいえるでしょう。『ボランジェ R.D. 2007』は、『ボランジェ』の魂そのものなのです」
「ボランジェ R.D. 」は“伝説のシャンパーニュ”だが、素晴らしいのは、メゾンが常にそこから新たな物語を紡ぎ出していることだ。2007年ヴィンテージに使われたブドウの畑は14あり、その内訳はグラン・クリュ(特級畑)91%、プルミエ・クリュ(一級畑)9%。それぞれの畑のブドウの特徴を生かし、緻密なブレンドによって、唯一無二の味わいに仕上げている。
家族の大切な記念日に開けたくなるのは、ていねいに造られた特別なシャンパーニュ。先行き不透明で気軽な外出もままならぬ時代。「ボランジェ R.D. 2007」を開ければ、きっと幸福に空気に包まれるに違いない。
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アルカン
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