さまざまな分野で活躍する“おやじ”たち。彼らがひと息つき、渋い顔を思わずほころばせる……そんな「おやつ」とはどんなもの? 偏愛する“ごほうびおやつ”と“ふだんのおやつ”からうかがい知る、男たちのおやつ事情と知られざるB面とは。連載第28回は、脚本家の西田征史さん

BY YUKINO HIROSAWA, PHOTOGRAPHS BY TAKASHI EHARA

 心がさまよったり、均衡を保つことが難しいことも少なくない現代──。“エンタメ”は、生きるうえで不可欠なものでは決してない。けれど、揺れ動く心のチューニング、時に癒しや潤い、人生の糧になることも十分にあり得る。その骨組みを担う脚本家が注目を集める昨今、今回は西田征史さんに話を聞いた。NHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』や、2022年7 月クールに放送されたリーガルドラマ『石子と羽男─そんなコトで訴えます?─』で脚本を務めた人物と言えば、ピンとくる人も多いだろう。

 ふわりと現れ、すっと座る。心地のよい声色で朗らかに話し、優しくうなずいて相手の話に耳を傾け、静かにカフェオレを飲む。もしも現実世界に“妖精さん”がいるとしたら、を具現化したような人。ルーツに迫ってみると…。

「幼稚園生の頃にゴロゴロしながら昼ドラを観ていた記憶はあるけど、主にアニメーションが好きな子どもでしたね。戦隊モノ、ではなく『スプーンおばさん』『タオタオ絵本館』、世界名作劇場の『小公女セーラ』のような。当時から可愛いらしい世界観が好きだったみたいで、おやつだと「たべっ子どうぶつ」はずっと好きですね。『RE-MAIN』というテレビアニメの監督と脚本を担当したときは、食事する時間を割けず、気づいたらガクンと痩せてしまって。身の危険を感じ、甘いだけじゃなく塩気もあって満足度もあるこちらをつまんで生きつないでいました(苦笑)」

画像: ギンビスの「たべっ子どうぶつ バター味」 63gオープン価格 「『RE-MAIN』のスタッフの一人から、誕生日に『たべっ子どうぶつ』の巨大なぬいぐるみと詰め合わせセットをいただきまして。ぬいぐるみは今、息子が抱えて寝ています。“好き”がつながっているのはうれしいですね」 ギンビス お客さま相談室 TEL.0280-98-2213

ギンビスの「たべっ子どうぶつ バター味」 63gオープン価格 
「『RE-MAIN』のスタッフの一人から、誕生日に『たべっ子どうぶつ』の巨大なぬいぐるみと詰め合わせセットをいただきまして。ぬいぐるみは今、息子が抱えて寝ています。“好き”がつながっているのはうれしいですね」
ギンビス お客さま相談室 TEL.0280-98-2213

 8歳の時、もともと「大人びたい感覚は強かった」という西田少年の心の成長スピードを加速させる出来事が起きた。「家族で車に乗っていたときに交通事故に遭遇し、2歳上の兄が突然亡くなって。死ぬという深い意味はわからなくても、数分前まで一緒にいた人が目の前から急に消えちゃう儚さを知りました。母の前では明るく振る舞おうとしたし、親のために生きたいと思ったし、兄の分も生きようと思った。僕の価値観はすべて、この出来事が基準になっている気がします」

 中学から大学までエスカレーターの、いわゆるエリートコースを歩む中、「人生は一度きりだから」と飛び込んだ芸人の道。憧れたのは、「バカルディ(現:さまぁ〜ず)さん。力の入り加減が好きだったし、パワープレイで笑わせるより、感情で笑っちゃうスタイルが好きだったのかな」。高校3年時には、憧れの先輩でもあるバカルディと同じ事務所に所属。

「21歳の頃に別の先輩芸人が立ち上げた劇団の若手公演で、15分間のお芝居の脚本を書いてみたらコンペで優勝して。お芝居には、笑いだけじゃなくてその先に何かがあって、コント以上にやりたいことが隠れているな、と」。小さい頃から、「もしこうだったら?と妄想したり、ゲームのルールを新たに加えたり…。すでに存在する骨組みから、足してみたり抜いたりする作業が大好きだった」という西田さんが、脚本家という分野で覚醒する。育休を挟みつつも、約20年もの間、すばらしい作品を世に送り出している。

一日のスケジュールは決まっているのだろうか?

「昔は完全に夜型でしたけど、子どもが生まれてからは、7時30分くらいに起き、朝食を食べて保育園に送り、9時過ぎから執筆を始めて18時30分くらいには切り上げる。夕飯を食べてお風呂に入って寝かせるという“子どもファースト”の生活をできる限り続けています。ただ、土日も執筆ですが。 また連ドラに入ると、『お父さん、戦ってくる』と言い残し、ホテルや近くにある実家に数日間こもって書き続ける日々を送ります。つい先日までは、2時間寝て書いての繰り返しで、いつ一日が終わったのかわからないまま何日か過ぎていましたね(苦笑)。今は、舞台の稽古期間を経て公演期間中なので、また全く違う時間割りで生きていますし、その時進めている仕事に合わせて変化しています」

 昔は、甘いもの=仕事を続けるためのエネルギー補給という意味合いが強かったそう。でも、「甘いものが好きな妻と一緒にケーキを食べたり、お三時前になるとそわそわし出すくらいおやつを楽しみにする子どもたちを見て、『一日の中にメリハリとか楽しみがあるのは、幸せなことだなぁ』と」。改めて美味しいと思うのが、「日本橋長門」の久寿もち。「母の好物で、小さい頃から慣れ親しんだ味。大人になって近くを通る際には、購入するようになりました。柔らかな食感で、口溶けなめらか。日本茶を合わせていただきます」

画像: 江戸風御菓子司 日本橋 長門の「久寿もち」¥890 徳川家の御菓子司を務め、長きに渡って菓子を献上してきた約300年の歴史を持つ老舗。本わらび粉100%を用い、熟練の職人によって透明になるまで練り上げられたそれは、エレガントな味わいとメルティな口溶けが魅力。香ばしいきな粉とのハーモニーは格別 江戸風御菓子司 日本橋 長門 TEL.03(3271)8662

江戸風御菓子司 日本橋 長門の「久寿もち」¥890
徳川家の御菓子司を務め、長きに渡って菓子を献上してきた約300年の歴史を持つ老舗。本わらび粉100%を用い、熟練の職人によって透明になるまで練り上げられたそれは、エレガントな味わいとメルティな口溶けが魅力。香ばしいきな粉とのハーモニーは格別
江戸風御菓子司 日本橋 長門 TEL.03(3271)8662

 おやつでひと息ついたらまた仕事。来年も、再来年も、たくさんの作品が待っている。どんな風に仕事を引き受け、進めているのだろうか?

「ゼロベースから携わることもあるし、『こんな企画があるんですけど、興味あります!?』と声を掛けてもらうケースも。前者の場合は、完全オリジナルなので没入して作りますが、後者の場合は、オーダーに応えつつどう面白くしていくか、課題に向かって進む仕事。腐心するポイントは違うのですが、どちらもやりがいのある面白い仕事です」

「脚本に関しては、筆が乗るまま書く人もいると思いますが、僕は真逆。こういう話なら面白いかも……という種を見つけたら、どんな人が登場して、どんな風に展開して、どう終わるか。そのためには他にどういうキャラクターが必要で、最初はどんなシーンだろう? 細部まで育んで、ようやく書き始めます。脳内で台詞が飛び交うときと、そうじゃない時があって、出てこないときは何らかの引っかかりや矛盾があるから。その違和感の原因は何かを追求して解決し、どんな意味があるかまで深く理解できると、またシーンが浮かんでくる感じです。毎回、『これ、書き終わるのかな』『“ドラえもん”に登場するひみつ道具の力で完成しないかな』とか思いながら書いています」

 西田さんが描く作品に登場するキャラクターは、全員がクスッと笑える愛くるしさや温かさを内包する。「私は、カッコよすぎるとかキレイすぎるものにもともと惹かれないタイプなんです。どこか『こんな奴、いるかな?』と、嘘臭さも感じちゃう。現実味をもたせたいし、人間はやっぱり完璧じゃないことのほうが多いから、そういう部分を書きたいという思いが強いです。社会ではヒーローだけど家に帰れば毛玉を取ってる、みたいな(笑)。作品を観てくださる人に、ちょっと安心もしてもらいたいし」

 脚本を書く以外、じつは原作考案、映像やアニメーション・舞台の監督や演出など、じつは何でもできちゃう西田さん。仕事をする上で大事にしていることはあるのだろうか?

「“ストーリーディレクター”とか“演出”など、演者の演技をディレクションする役割をもらったときはとことんそこにも注力しますが、“脚本”だけの場合は、監督の領域に踏み込まない、出しゃばらない。“みんなで作っている”ことを常に意識しています。脚本も演出もどちらもするので、こうすることで使い分けている感じです。もちろん、脚本だけで参加している作品で監督から演出イメージや演技イメージを聞かれた際は、自分の頭の中のことを全てお伝えして実演することも。頭の中に浮かんだアイデアが形になる喜びはずっと変わらずあるし、そこに演出や演者の才能が乗って膨らんだときに幸せを感じますね」

 今後の展望はあるのだろうか?

「子どもたちに向けて送る、SDGsの番組『あおきいろ』や多様性の理解を深める『u&i』(ともにNHK Eテレ)は長く続けているライフワークのひとつ。こういった次の世代のためになるようなお仕事にもっと携わっていきたいな、と。教育番組を書いた翌日に、『必殺仕事人』(朝日放送テレビ)で人を斬るシーンを書いていたりするので、脚本家ってとことん不思議な仕事ですよね(笑)」

 ファンタジーでユーモラス、でもってやっぱりハートウォーミング。“西田ワールド”は、なかなかの沼だ。

画像: 西田征史(MASAFUMI NISIDA)さん 1975年東京都生まれ。学習院高等科3年生の時に「ホリプロ」の芸人オーディションを受けて合格し、コンビで活動。学習院大学法学部法律学科に通いながら、芸人や俳優として活動。一方で映画『ガチ☆ボーイ』のコンペティションで脚本に抜擢。TBSドラマ『魔王』、日本テレビ系『怪物くん』『妖怪人間ベム』、2016年上半期はNHK朝ドラ『とと姉ちゃん』の脚本を担当。TBSドラマ『石子と羽男——そんなコトで訴えます?——』では、ギャラクシー賞月間賞を受賞。現在放映中のアニメ『TIGER& BUNNY 2』(バンダイナムコ ピクチャーズ)では構成と脚本、ストーリーディレクターを担当。12月3日まで作・演出を務める舞台『盗聴』を上演中。プライベートでは6歳と2歳の子煩悩パパ。 ©Queen-B

西田征史(MASAFUMI NISIDA)さん
1975年東京都生まれ。学習院高等科3年生の時に「ホリプロ」の芸人オーディションを受けて合格し、コンビで活動。学習院大学法学部法律学科に通いながら、芸人や俳優として活動。一方で映画『ガチ☆ボーイ』のコンペティションで脚本に抜擢。TBSドラマ『魔王』、日本テレビ系『怪物くん』『妖怪人間ベム』、2016年上半期はNHK朝ドラ『とと姉ちゃん』の脚本を担当。TBSドラマ『石子と羽男——そんなコトで訴えます?——』では、ギャラクシー賞月間賞を受賞。現在放映中のアニメ『TIGER& BUNNY 2』(バンダイナムコ ピクチャーズ)では構成と脚本、ストーリーディレクターを担当。12月3日まで作・演出を務める舞台『盗聴』を上演中。プライベートでは6歳と2歳の子煩悩パパ。

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