TEXT&PHOTOGRAPHS BY JUNKO AMANO
寒さが厳しくなる1月。隣接する大阪から京都に来た人から「京都、寒すぎませんか?」と、言われることも多く、足元からじんじんと寒さを感じる京都の底冷えは堪える。そこで、今月は冷えたカラダに染み渡るあたたかい料理を紹介。第3弾は「志る幸」の汁ものをご案内します。
四条河原町「志る幸」

山芋の中でもコクと粘りのある大和芋をすりおろし、名前の通り、椀にポトンと落として、白味噌仕立ての吸地をはった「おとしいもの白味噌椀」¥900
今回紹介する「志る幸」は、昭和7年創業、旅行者にも人気の和食店だ。かやくごはんやサワラの幽庵焼、若鶏のうま煮、半熟卵など茶事風の点心「利久辨當」は食べたことがある方も多と思うが、次回訪れた際は、ぜひ「利久辨當」に付いている汁ものをアップグレードしてみてほしい。
「志る幸(しるこう)」とい店名は、昔、客がめいめいに飯を持って寄り合い、主人が汁ものを用意して行った宴「汁講」に由来。もてなしの気持ちをただ一杯の汁に込めた日本古来の風習を大切に、店でも汁ものに力を入れている。具材は季節がわりを含め10種類以上から選べ、白味噌、赤味噌、合わせ味噌、すましから選ぶことができる。

「利久辨當」¥3,000。白味噌椀の具材を豆腐から「おとしいも」に変更した場合¥3,700
「おとしいもの白味噌椀」はとろとろの大和芋と白味噌の上品な甘さ、奥深さを感じる出汁の風味が一体に。通年出されているが、寒い時期は特に食べたくなる味わいだ。

濁点のない汁もののお品書き
店の壁に掛けられた汁ものお品書きにも注目。そうに(ぞうに)、くしら(くじら)、しゅんさい(じゅんさい)と、濁点がつけられていないのは、「汁が濁らないように」という思いからだそう。

中央のカウンター席に座ると、目の前に畳の間が広がる不思議な造り
そのほか店内には、八坂の能舞台をイメージした畳の間を囲むようにカウンター席が設けられていたり、三条大橋や五条大橋のモチーフにした装飾が施されていたり、遊び心溢れる意匠が随所に。粋人だった創業者の人柄が偲ばれる。

カウンター前の装飾は五条大橋がモチーフ。店内の意匠は、茶や点心を屋外でいただく野点をイメージしているそう
注文の7、8割が「利久辨當」だそうだが、実は一品料理も豊富にそろい、刺身や油物、焼き物、鍋物、酒の肴など、割烹級のラインアップだ。今の時期は、胡麻香る利久餡をかけた海老芋の含め煮やかぶら蒸しなど、冬の京都を感じられる料理もいろいろ。いつもの「利久辨當」に追加するもよし、旬の一品をちょこちょこ注文し、汁物とかやくご飯で〆るもよし。弁当が名物と聞くと昼のイメージが強いが、夜にもお勧めの一軒だ。

京都一の繁華街、四条河原町からすぐ。変わりゆく街で変わらない希少な店
「志る幸」
住所:京都市下京区四条河原町上ル一筋目東入ル
営業時間:11:30~最終入店14:00、17:00〜最終入店20:00
定休日:水曜、火曜夜
TEL. 075-221-3250

天野準子
生まれてこの方、碁盤の目と呼ばれる京都の街中暮らし。雑誌やWEBで京都にまつわるライティングやコーディネートを行っている。プライベートでは、強靱な胃袋を武器に日々、おいしいものをハント