今年3月、イタリアの名門ワインメーカー「アンティノリ」CEO兼醸造責任者のレンツォ・コタレッラ氏が初来日。このたび、日本初登場のトスカーナ・ボルゲリのワイン「マタロッキオ 2019」の唯一無二の魅力と、600年に及ぶアンティノリの哲学を語ってくれた。

BY KIMIKO ANZAI

 14世紀から続く名門として、長きに渡りイタリアワインをリードしてきたのが「アンティノリ」だ。本拠地トスカーナを中心に、イタリア各地で素晴らしいワインの数々を生み出してきた。なかでも、1974年に発売された「ティニャネロ 1971」は、キャンティ・クラシコの醸造規定にはあてはまらなかったことから、生産地呼称で一番下のテーブルワインとして発売されたが、その優美な味わいで大ブレイクし、“スーパー・タスカン(トスカーナ)”と称された。「アンティノリ」はイタリアワインの歴史において、多大な影響を与えてきた生産者としてワインの世界で広く知られ、尊敬を集めている。

画像: アンティノリCEO兼醸造責任者のレンツォ・コタレッラ氏(右)。1970年代に25代目のピエロ・アンティノリ氏にスカウトされ、「カステッロ・デラ・サラ」の醸造責任者に。以来、アンティノリの栽培全般に携わる。今回初来日。「日本はワインに対する感受性が高い国ですね。物事を進める正確さや繊細さも素晴らしく、自分に合う国だと感じました」。左は27代目のヴィットリオ・アンティノリ氏で、現在はアンティノリがチリで展開するワイナリー「アラス・デ・ピルケ」を担当。「最初はあえて本家から離れた土地で修業させる」のがアンティノリ家流。

アンティノリCEO兼醸造責任者のレンツォ・コタレッラ氏(右)。1970年代に25代目のピエロ・アンティノリ氏にスカウトされ、「カステッロ・デラ・サラ」の醸造責任者に。以来、アンティノリの栽培全般に携わる。今回初来日。「日本はワインに対する感受性が高い国ですね。物事を進める正確さや繊細さも素晴らしく、自分に合う国だと感じました」。左は27代目のヴィットリオ・アンティノリ氏で、現在はアンティノリがチリで展開するワイナリー「アラス・デ・ピルケ」を担当。「最初はあえて本家から離れた土地で修業させる」のがアンティノリ家流。

 CEO兼醸造責任者のレンツォ・コタレッラ氏は「アンティノリ」についてこう語ってくれた。
「ひとつのブランドを築き、信頼を得るというのは容易なことではありません。私たちはここに来るまでに600年かかりましたからね(笑)。私は1970年代に先代のピエロ・アンティノリ侯爵の招聘を受け、今まで『アンティノリ』を見続けてきましたが、常に感じていたことは『”今”を守るためだけでなく、常に未来を見据えて発展させていかなくてはならない』ということでした」。

 ワインの質を上げるのは当然で、そのためにはテロワールを理解し、その畑でどんなブドウができるのか見守ることが重要だという。その上で、ブドウの個性を尊重し、「どんなワインになるのか」を見極めることが大切だと語る。
「私たちはアンティノリならではのワインを造るべく、新しいことへのチャレンジを繰り返してきました。サンジョヴェーゼ主体に国際品種のカベルネ・ソーヴィニヨンをブレンドした『ティニャネロ』はその一例です。その後に誕生させた『ソライア』は、ティニャネロの畑の中に素晴らしいカベルネ・ソーヴィニヨンの区画が見つかったことから、“ティニャネロの比率を逆転させたらどんなワインができるのだろう”と考えたことがきっかけでした」とコタレッラ氏は笑顔を見せる。

画像: 「グアド・アル・タッソ」のワイナリー。「アンティノリ」のワイン生産者としての歴史は、1385年、フィレンツェのワインギルドに加盟したことが始まり。トスカーナを拠点とし、「ティニャネロ」、「ソライア」などのテロワールと歴史を反映したワインを生み出してきた

「グアド・アル・タッソ」のワイナリー。「アンティノリ」のワイン生産者としての歴史は、1385年、フィレンツェのワインギルドに加盟したことが始まり。トスカーナを拠点とし、「ティニャネロ」、「ソライア」などのテロワールと歴史を反映したワインを生み出してきた

 今年、日本に初登場した「マタロッキオ 2019」も、同社のそのようなチャレンジの哲学の中から生まれた1本だ。トスカーナの海岸部ボルゲリに所有するワイナリー「グアド・アル・タッソ」のニューラインで、品種はカベルネ・フランのみ。この品種構成はまだイタリアでは数少なく、革新的なワインと言っていい。スミレや牡丹、リコリスなどフローラルで甘やかなアロマの中にミントや黒コショウのヒントがあり、奥行きを感じさせる。凝縮感に満ちた果実味には繊細な酸が溶け込んで、そのバランスも秀逸。カベルネ・フランは、通常ブレンド用に使われることが多い品種であることから、「こんなにも美しいワインになるとは!」と驚かされる。

 実は、「マタロッキオ」は初めからカベルネ・フラン100%のワインを造るべく造られたワインではない。元々は「グアド・アル・タッソ」のトップ・キュヴェ「グアド・アル・タッソ」の主要品種であるカベルネ・ソーヴィニヨンとブレンドさせるためにいくつかの区画に分けて栽培していたものだった。それがある年、コタレッラ氏はひとつの区画のカベルネ・フランが卓越した個性を持っていることに気づいた。そこで彼は「このカベルネ・フランだけでワインを造ったらどんなものができるだろう?」と醸造を決意、後にリリースされたファースト・ヴィンテージ「マタロッキオ 2007」は、想像以上に素晴らしいものとなったという。
「ですが、翌年の2008年は理想通りには仕上がらなかったので、リリースしませんでした。10年、14年、18年のヴィンテージも造っていません。ブドウはヴィンテージによって出来が違う。私たちが納得したものだけを市場に送ることにしたのです」とコタレッラ氏。ここにはアンティノリの家訓であるという「卓越性への不屈の追求」の精神が表れている。
 

画像: アンティノリは640年続く家族経営のワイナリー。全世代を通じて、必ずファミリーがワイン造りに関わってきた。家訓は「卓越性への不屈の追求」で、現状に甘んずることなく、常にさらなる高みを目指す

アンティノリは640年続く家族経営のワイナリー。全世代を通じて、必ずファミリーがワイン造りに関わってきた。家訓は「卓越性への不屈の追求」で、現状に甘んずることなく、常にさらなる高みを目指す

「マタロッキオ 2019」の魅力は、おそらくワイン通にとっては“アンティノリの新たな挑戦から生まれた珠玉の味”というストーリーにあるだろう。だが、それだけでなく、ワインの知識がまったくない人にも「このワインはすごい」とストレートに伝わるところにもある。特別な記念日に、大切な人への贈り物に、“とっておき”としてマイ・リストに入れておきたい。

画像: 「マタロッキオ 2019」 イタリア・トスカーナ州(ボルゲリ)。カベルネ・フラン100%。テヌータ・グアド・アルタッソの小さな畑から収穫された魅力的な個性をもつブドウのみで造られる。カシスやスミレ、芍薬、黒コショウなど香り豊か。和牛のすき焼きなど、和食とも相性抜群。750㎖ ¥93,500 PHOTOGRAPHS: COURTESY OF ANTINORI

「マタロッキオ 2019」 イタリア・トスカーナ州(ボルゲリ)。カベルネ・フラン100%。テヌータ・グアド・アルタッソの小さな畑から収穫された魅力的な個性をもつブドウのみで造られる。カシスやスミレ、芍薬、黒コショウなど香り豊か。和牛のすき焼きなど、和食とも相性抜群。750㎖ ¥93,500

PHOTOGRAPHS: COURTESY OF ANTINORI

問合せ先
エノテカ
TEL: 0120-81-3634

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