BY TAKAKO KABASAWA, PHOTOGRAPHS BY YUKO CHIBA
別荘ライフを楽しむように、こなれた大人の旅時間を過ごす……そんな理想が手軽に叶えられる話題の“セカンドホーム”が今回のステイ先だ。ひとつ上の“別荘ご飯”のためのナチュールワイン専門店と合わせてご覧いただきたい
《STAY》「SANU 2nd Homeー八ヶ岳2nd(サヌ セカンドホーム)」
眠っていた感性を呼び覚ます“ネオ”別荘時間

八ヶ岳には2箇所に拠点があり、2ndには13棟のキャビンが並び、そのうち3棟は愛犬との宿泊も叶う。初回はトライアルステイも可能(1泊¥33,000➕清掃代)
子供の頃には、自然をまっすぐに見つめ、何もないところから遊びを見出せた。そんな自然との向き合い方を成長の過程で置き忘れてしまったのか、大人は目的や手段がないと時間を持て余しがちである。ならば、その感性を少しでも取り戻したいと訪れたのが、豊かな自然の中にセカンドホームを持つサブスクリプションサービス「SANU 2nd Home」だ。コンシェルジュや料理人はいないけれど、解放感のあるモダンな空間と充実したキッチン設備を備え、旅先に居ながらにして“もう一つの自分の家”で過ごすことができる。
まずは、森の中で拾った石にアロマオイルを染み込ませてベッドサイドに置いてみる。ベランダでキャンドルを灯し、中編でご紹介した「MANGOSTEEN HOKUTO」で買い求めたクラフトビールで一息つく。キャビンの周囲に咲く、素朴な野の花をダイニングテーブルやローテーブルに飾る……。自分の空間へとカスタマイズしながら、遠い記憶から自然との遊び方を手繰り寄せる。

愛用のエッセンシャルオイルを持ち込んで。特別なディフューザーはなくとも、森の石が香りを受け止めてくれる(オイルやトレイは私物)

テラスで森の木々を眺めながら、至福のトワイライトタイムを(キャンドルは私物)
「SANU 2nd Home」のサービスが開始されたのは2021年。月額¥55,000で月7回まで使える、全く新しい別荘ライフの提案として話題を呼んだ。現在(2023年7月の時点)は、八ヶ岳を始め、軽井沢や山中湖、伊豆高原、安曇野など11拠点に62室が立つ。個人で別荘を所有する場合には、修繕や季節ごとの風通し、滞在の前後には掃除など、管理と保持にまつわるエトセトラが不可欠だ。ここでは、その煩わしい部分だけを取り除き、複数の拠点の別荘をシェアできる。
木の鼓動が感じられる三角形のキャビンは、森の保全を掲げ、岩手県の釜石市と提携した間伐材のみを使用。独創的なフォルムにも理由があり、できる限り木々の枝を伐採せずに森を身近に感じられるための工夫だという。さらに、自然への負荷を加味し、数十年後に建物を解体したら元の森の姿に返せるように、地中に杭を打つことなく高床式の構造を考案。また、今年からは各拠点の脱炭素化を目指し、CO2の発生しない電力供給を行う「ハチドリ電力」を採用した。すべてが“森ファースト”で考えられ、地球への優しさが人間の心地よさと溶け合う空間を体感することができる。

室内のデザインも独創的。壁の中に収まるようにしつらえたベッドは冒険小説の屋根裏部屋のようでもある

入り口を入ってすぐの位置に設えたダイニングスペース。天井も高いため、調理中の煙などもベッドに入る頃には自然と換気されている
室内を入ると、真っ先に目に入るのは開放感のあるアイランドキッチンとダイニングテーブルだ。通常、ホテルなどはベッドルームを基調に設計されているのに対して、「SANU 2nd Home」はキッチンが主役。調理器具や調味料、食器類も充実しているため、準備するのは食材だけ。その調達は、移住者も多く訪れる、「ひまわり市場」へ。地産の野菜はもちろん、人気ベーカリーのパン、こだわりの養鶏ファームの卵などが一堂に会する。キャビンの入り口で見つけた大きな葉っぱや木ノ実も装飾に加え、魚やジャガイモをグリルする間に、ワイングラスを傾けチーズを一欠片つまみ食い……。ゆったりと夕食を準備することが、これほど贅沢な時間だったということも森のキャビンが教えてくれた。

「ひまわり市場」(http://himawari-ichiba.com)で調達した食材。牛乳やヨーグルトなども、広く流通されていない地元のファームのものが揃う

豊富なテーブルウェアやカトラリーに加え、グラスのバリエーションも豊富。ワインオープナーやコーヒーサーバーも完備
住所:山梨県北杜市大泉町谷戸 5771-221
公式ホームページはこちら
《BUY》「Wine Shop soif(ソワフ)」
ナチュラルワインとの一期一会を味わう

暑い夏にぴったりなロゼのスパークリングから、クリーンな白ワイン、軽やかな赤ワインまで。ワイナリーの物語や人間模様を聞きながら、好みの1本を選び抜く時間も特別
夏の陽気なムードと森の瑞々しさの中で楽しむワインを求めて訪れたのは、国道の裏道に佇む隠れ家のような「Wine Shop soif」だ。ここは、少ロット生産の個性派ワインが常時5000本以上も揃う、ナチュラルワインの専門店である。オーナーの窪田裕介さんは、大学卒業後にイギリスへ留学、バックパッカーをしながらヨーロッパの食と酒のカルチャーを巡った。その後、山梨に戻り25歳にして店を構えた。フランスやイタリア、スペイン、オーストリアなど……ナチュラルワインの生産者を直接訪れることはもちろん、毎年ロワールで開催される世界的な試飲会へも足繁く通いながら、独自の視点でワインの魅力を語り続けている。

地下のワイン保管ブース。品質を管理するため、室内は常に16℃に保たれている

オーナーの窪田裕介さんが解説してくれるワインは、作り手のライフスタイルまでもが風景として伝わるようだ
ナチュラルワインは、小規模生産の個性的なテロワールが表現されている。窪田さんが特に心がけてセレクトしているのは、できる限り自然に負荷をかけず、ワインに対して余計な手を加えすぎないという哲学を持った作り手の品。何も足さないで造るからこそ、その年ごとの気候の影響によって味が変化する。そんな“ありのままの味わい”こそがナチュラルワインの醍醐味だという。「好きなアーティストのアルバムを買うような気持ちで、興味を抱いた生産者のワインを買い続けてみる。それが、ナチュラルワインを楽しむ秘訣です」と窪田さん。
例えば、ドイツの「Brand Bros」はテクノミュージック好きの30代の兄弟が手がけるワイン。ボトルのエチケットは、彼らの祖母が描いたドローイングが使われている。牧歌的な雰囲気とモダンさが交差する、作り手のストーリーがワインの魅力を増す。また、オーストラリアの「ボラチオ」は元音楽家とグラフィックデザイナーが手がける。ファンキーさとジューシーさが溶け合うスパークリングロゼが夏にぴったりだと勧めてくれた。「SANU 2nd Home」で過ごすために求めた1本は、フランスはロワール地方の「レザランス」というワイナリーの白ワイン。「雪が降った、白はどこへ行くの」という叙情的なネーミングを冠した、ミネラル質の塩気と爽やかな果実味が夏野菜を優雅に引き立ててくれた。窪田さんの心地よい“ワイン語り”に耳を傾けながら、今、この瞬間の気分を投影するワインと出会ってほしい。

アーティーなラベルもナチュラルワインの魅力。ボトルには、窪田さんによる丁寧な手書きのコメントが添えられ、味わいの特徴とともに作り手の個性が一目瞭然だ

ルイスバラカンのキューブ建築を思わせる、白亜の門のような建物。吹き抜けの部分からは八ヶ岳が望める
住所:山梨県北杜市長坂町長坂上条2539-43
公式ホームページはこちら
豊かな風土に彩られた日本には、独自の「地方カルチャー」が存在する。郷土で愛されるソウルフードから、地元に溶け込んだ温かくもハイセンスなスポットまで……その場所を訪れなければ出逢えないニッポンの「ローカル・トレジャー」を探す旅。次はどこへ向かおうか。

樺澤貴子(かばさわ・たかこ)
クリエイティブディレクター。女性誌や書籍の執筆・編集を中心に、企業のコンセプトワークや、日本の手仕事を礎とした商品企画なども手掛ける。5年前にミラノの朝市で見つけた白シャツを今も愛用(写真)。旅先で美しいデザインや、美味しいモノを発見することに情熱を注ぐ。
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