PHOTOGRAPH BY AKIRA YAMADA

「日本に来てから茶道を知りました。そこでは人間と自然、人間と人間の関係に思想があります。茶室の中ではビジネスの話や諍いさかい、戦いの話などはしないで、人生とか哲学、自然の美しさを語り合いますね」

 

 現代アートの都であるニューヨークに、茶室を持ったアトリエを構える。ビジネスの場であり、制作の最前線。それは戦国の武将たちが茶に入れ込む気持ちと通じるものがあるのか。

 

「アトリエは進行形で日々、時間ごとに変化します。ニューヨーク・タイムズがインタビューに来るといわれればそれ用に準備をし、フランスのテレビクルーが来たら別の対応をする。美術館との打ち合わせをし、直面する問題は次々に解決していかなければならない。そんな中にあって、まわりの時間の流れから超越し、離れた場所が欲しかったのです。アトリエの中で、そこに入れば何も変わらない、空白のような場所をつくっておきたかったのです」

 実際に設計をした重松に聞いてみた。茶室に必要な要素はなんだったのだろうか。

 

「茶室を定義する基本的要素(つくばい、躙にじり口、畳間、床の間、天井)と、その配置や寸法を考えることはもちろんですが、蔡さんからは茶道に特化した空間ではなく、彼が瞑想をしたり、ときに昼寝をしたり、ゲストルームとしても使いたいという要望もいただいていました。ですので、ルールを崩しながらも、シンプルな侘びの雰囲気と茶室がもつ独特の親密性を保つこと、蔡さんが主人として自然にリラックスしたりもてなしたりできることをイメージし、彼の人柄を表現できることに集中しました」地下にありながら、自然光を取り入れ、竹林があるのもそういう配慮からだろう。茶室を求められたとき建築家自身は何を考え、どう対応するのか。

 

「茶室を設計するのは初めてでしたので、実際にお茶の作法を習いに行ったり、茶室もたくさん見学に行きました。伝統的な事例はもちろん、建築家やアーティストが手がけたコンテンポラリーな事例も見ました。造っていくプロセスの中ではニューヨークの裏千家の方に何度か見ていただきました」

 

 このアトリエ全体はドアや隔たりをできるだけなくして連続性を高めた空間に仕上がっているのだが、唯一、茶室だけは蔡が一人になれる場所ということで遮蔽し、周囲から断絶できるようになっている。