BY YOSHIO SUZUKI, EDITED BY JUN ISHIDA
茶室を巡ってユニークな仕事をし、常に注目されているのが建築家・建築史家の藤森照信である。隠れ家が発展した茶室や、地面から浮き上がり空に伸びていく茶室を造ってきた。台湾、デンマーク、ドバイ、ムンバイ、シドニーでも依頼されて茶室を造った。
「茶室って概念は外国にはない。お茶は喫茶店で飲む、あるいはレストランで飲むものです。中国の場合は書斎で飲む。茶室ってもともとお茶を飲むだけでそれ以外のことはしないから、ほかに例がない空間なんですね。それなのに頼まれるというのは、狭い空間が欲しいということなんです。親密になれるから。お茶をやる習慣のあるなしはおいておいても。そして茶室を造るということは、火を入れる場所をつくることになりますね。これはもう絶対につくる。火を入れる空間をつくった途端に、人間の根本的空間をつくった感じになります。そもそも建物というのは火を絶やさないために必要であって、そこに人が入り込んだのだと僕は思っています。動物から身を守るため、暖をとるため、そして調理するため」
初めに火があった。そのために建物が造られた。まさにそれは茶室ではないか。
「茶室って、最初から〝インテリア〞なんです。外観がない。眼中にない、重視してないんです。そして狭い。言ってみれば人間の心みたいなものです。心の外観って、見た人はいないでしょう。外観のないものといえば、たとえば天国がそうです。中だけです。エデンの園に行くと庭があるでしょ。極楽はあるけど、極楽の外観はない。仏様がいて池があるだけ。茶室という閉じた世界を目指して露地を通って歩いていくと、最後に不思議な空間が現れる。そこには別の世界がある。だから人はそこへ向かうのです」
「今日は工業主義のために真に風流を楽しむことは世界至るところますます困難になって行く。われわれは今までよりもいっそう茶室を必要とするのではなかろうか。」(前掲『茶の本』)
岡倉天心が『茶の本』を書いて今年で110年。茶室は必要とされ、その思いは世界にも広がっている。